Papers and Abstracts

論文・講演抄録

Probioticsは定着するのか

門上	大祐

2023年度 年次大会-講演抄録シンポジウム2:着床障害の原因と治療

学会講師:門上 大祐

Abstract

ヒトと共生する100兆個の細菌は体の各部位で細菌叢を形成しており、生息部位の機能発現、免疫調整を担っている。正常細菌叢からの逸脱(Dysbiosis)は、宿主の不利益に繋がることが知られている。個別にみると、腎生殖器には全体の9%の細菌が存在し、その大部分を{i}Lactobacillus{/i}が占めている。過去には無菌臓器と考えられていた子宮にも細菌叢が存在することが明らかになっており、特に子宮内細菌叢と妊娠/着床との関係が着目されている。
子宮や腟の細菌叢においては{i}Lactobacillus{/i}が減少した状態をDysbiosisと定義するのが一般的であり、大部分の女性では{i}L.crispatus{/i}、{i}L.iners{/i}、{i}L.gasseri{/i}、{i}L.jensenii{/i}の1つまたは2つの種が含まれる。近年、{i}Lactobacillus{/i}の中でも種毎に異なる特徴を有する内容が徐々に明らかになっているおり、細菌叢の評価として種レベル解析の重要性が認識されつつある。Dysbiosisに対する治療手段としては、Antibiotics、Probiotics、Prebiotics、Microbial transplantsが候補となる。腟Dysbiosisの研究では、メトロニダゾール単剤による治療は再発率が高く、理由として、治療後に{i}L.iners{/i}が優勢な菌叢が形成されることが報告されている。そのため、メトロニダゾール使用後にProbioticsを併用することで高い治癒率が達成されることが報告され臨床応用が期待されている。
我々は子宮内Dysbiosisに対する治療に着目し、メトロニダゾール、Probiotics、Prebioticsそれぞれ単剤では治癒率が低く、メトロニダゾール使用後にL.gasseriを主体とするProbioticsを併用することで高い治癒率が得られることを報告した。臨床上も本治療を施行し、高い治癒率とDysbiosis改善後の妊娠率を得られていたが、保険化の影響により本剤の使用が難しくなり、現在は{i}L.acidophilus{/i}、{i}L.rhamnosus{/i}から構成されるProbioticsを使用している。結果、Probioticsを構成する{i}Lactobacillus{/i}の種が変わることで子宮内Dysbiosisの治癒率は低下し、治療後の菌叢の特徴にも変化を認めている。
本講演では、反復着床不全の患者を対象に行った子宮内細菌叢検査の結果、Dysbiosisであった症例に対する治療としてのProbioticsの使用経験および、ART成績への影響、菌叢評価について文献的考察を踏まえて報告する。

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