顕微授精における胚培養士による精子選別を 支援することを目的として作成された機械学習モデル
2021年度 年次大会-講演抄録|日本臨床エンブリオロジスト学会 「授精法のブレイクスルーを考える」
学会講師:佐藤 琢磨
Abstract
高度の男性不妊では顕微授精(ICSI)が必要となる.ICSI では,精子の運動性や形態を参考に胚培養士が判断し,使用する精子を選択している.精子の形態は,Menkveld やWHO ラボマニュアルによりその特徴が報告されているが,実臨床でICSI を行う場には,これらの判断基準を胚培養士が経験的に学習し,判断している.ICSI における精子の形態的評価は属人的で,主観的であると言われており,機械学習を用いた精子解析手法の開発が期待されている.機械学習は画像認識技術における精度向上をもたらしており,顕微授精における精子抽出および良好精子選別や判断基準の均質化にも応用可能と考えられる.
機械学習を用いた精子解析は,形態学的評価やトラッキング技術を用いた運動性の評価に関していくつか報告されている.SCIAN,HuSHeM,SMIDS などの染色された精子画像の公開されたデータベースに対して,機械学習の手法を用いてその形態学的分類性能を評価している研究や,MHSMA という非染色の精子画像の公開されたデータベースに対して,先体,頭部,空胞の部位ごとに形態学的分類の性能を評価した研究がある.
ICSI を行う場合,胚培養士は倒立顕微鏡で400×という低倍率で無染色の精子の頭頸部を観察し運動性能と形態評価を行なっているが,このような一連の作業を支援しうる機械学習モデルは報告されていない.
本研究では,インフォームドコンセントを得てICSIを行う作業に沿って倒立顕微鏡下での動画を撮影し,4625 個の無染色精子の新たなデータセットを作成した.動画の切り出し画像を胚培養士1名が正常(顕微授精に使用する), 異常(顕微授精に使用しない),分類不能(画像上判断できない)に分類し,機械学習することで良好精子判別モデルを生成した.生成したモデルは,5-fold cross validation により陽性適中率と感度を検証した.
特定の胚培養士の基準をバランスの良いデータセットで学習させることにより,その胚培養士と同じ判断基準で形態を評価することが可能となり,顕微授精における精子選別支援や判断基準の均質化が可能となる.