Papers and Abstracts

論文・講演抄録

Piezo-ICSI の原理と有用性(基礎分野の経験的立場から)

堀内 俊孝

2020年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会「Piezo-ICSI の今後の展開と有用性」

学会講師:堀内 俊孝

Abstract

これまでに, ウシのPiezo-ICSIによる受精と胚発生の研究を行い,ピエゾ・マニピュレータシステムの構築,フロリナートシステムへの移行を経験し, その過程において多くのことを学んだ.本講演では,基礎分野の経験的立場からPiezo-ICSIの原理と有用性について,話題を提供する.

1992年Palermoらがヒト精子の卵細胞質内精子注 入法(ICSI)による初めての妊娠,出産の成功を報告 した.ICSIは,男性不妊症のみならず,IVFの受精障害の症例等に適応が広がり,不妊治療では基幹技術となっている.

ヒト卵子のICSIでは,先端にスパイクの付いたイ ンジェクションピペットを卵子に突き刺し,卵細胞膜を吸引によって破り精子を注入する方法 (Conventional-ICSI: C-ICSI)が広く普及している.近年, ピエゾ圧電素子を用いたPiezo-ICSIがヒト不妊治療分野でも普及しはじめ,C-ICSIと比べ受精率が 高く,変性率が低いことが報告されている.さらに, 技術的にも簡易で再現性があり,技術者の養成も容易である.

ピエゾはギリシャ語で圧力を加えるという意味で, 電圧が加えられると伸縮する構成要素が圧電素子で ある.これは,入力されたエネルギーを物理的運動 に変換し能動的に駆動するアクチュエータに利用さ れている.当初は,マイクロマニュプレータの自動化システム開発の一環として圧電素子を用いた細胞操作用マニュプレータの開発が行われた.

現在のPiezo-ICSIは,1995年のKimura&Yanagimachi によるマウスICSIの報告からはじまり,多くの動物種で使 用されている.Piezo-ICSIは,C-ICSIと異なり,イ ンジョクションピペットの先端は平坦である.なぜ ピペット先端が平坦でありながら透明帯をくり抜き,卵細胞膜を破ることができるのか? ピペット先端 を透明帯表面に接触あるいは少し隙間をあけてピエ ゾをかけることで透明帯にスリットが入る.ピエゾ パルスをかけながら手動で少しずつ前にピペットを進めることで,透明帯を円筒状にくり抜くことができ,くり抜かれた透明帯チップはインジェクションピペット内に吸引される.このことはピペット側壁に おける先端の液流が鋭く動くことを示している.

ピエゾ振動に影響する要因の理解は,Piezo-ICSIで トラブルが生じるリスクを低下させる.ピエゾ端子 (発振体)からピペット先端部の距離が短いほど,ピ エゾ振動は強くなる.また,PVP濃度が薄いほどピエゾ振動は強くなるが,PVP濃度が薄くなると精子の操作性は低下する.ピペット内のフロリナート量, インジェクションピペットの形状やガラスの厚さも 影響する.

Piezo-ICSIは,そのシステムの構築に少し時間がか かるが,ヒトの不妊治療分野において有用な技術で あり,さらに普及していくことが期待される.

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