O-9 不妊を呈するミュータントマウスにおける染色体分離異常と受精・胚発生との関連
2021年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:竹下 百音1)・園 菜々美2)・田崎 秀尚1)・国枝 哲夫3)・大月 純子1)
1) 岡山大学大学院環境生命科学研究科, 2) 岡山大学農学部, 3) 岡山理科大学獣医学部
Abstract
【背景・目的】
卵成熟過程には様々な遺伝子が関与しており,これらの異常は雌
性不妊を惹起する.ENU(N-ethyl N-nitrosourea)誘発突然変異
マウスであるrepro57 マウスは,減数分裂時の交叉形成に関与する
Rnf212遺伝子に変異を有し,repro57( -/-)個体は雌雄ともに野生
型個体(WT)およびヘテロ型個体との自然交配後に不妊を呈す.
repro57( -/-)雄個体では第一減数分裂前期パキテン期における交叉
形成異常により精子形成されない.一方,repro57( -/-)雌個体では
減数分裂が進行し排卵・受精が起こるも妊娠が成立しない.よって
本研究ではrepro57( -/-)雌マウスにおける染色体分離異常と受精・
胚発生との関連を調べることを目的とした.
【方法】
過排卵処理したWTおよびrepro57( -/-)雌マウス由来MII期卵
の染色体スプレッドを作成し,抗セントロメア抗体により各姉妹染色体の倍数性/異数性および相同染色体間の動原体の距離を調べた.
また,MII 期卵にWT 由来精子を用いて媒精し,タイムラプス観察
システムを用いて胚発生を撮影することで,受精率,胚発生率ならび
に発生動態を解析した.
【結果】
過排卵処理で得られた卵はWT では全てMII 期であった一方,
repro57( -/-)ではMI期およびA/T期の未成熟卵が69.4%を占めた.WTのMII 期卵は全て正倍数性を示し,動原体の全てが相同染色体間で接着を保持していたのに対し,repro57( -/-)では90.9%に異数性が認められ(p < 0.01),動原体間距離の有意な解離が認められた(p < 0.01). また,IVF 後の受精率,2細胞,4細胞,8細胞,桑実胚および胚盤胞率はそれぞれWT で92.7,87.8,87.8,85.4,
80.5,78.1%であったのに対し,repro57( -/-)で62.5,50.0,30.4,12.5,7.1,1.8%と受精率,胚発生率ともにrepro57( -/-)において有意に低下した(p < 0.01).repro57(-/-)の発生動態には細胞分裂失敗や空胞形成など様々な異常が認められ,形態異常率は54.2%と高値であった(p < 0.01).
【考察】
本研究よりrepro57( -/-)雌マウスにおいて卵成熟の遅延が認めら
れた.受精時に卵が未熟であることが受精能低下の要因と推測され
る.また,MII 期の動原体分離および異数性は姉妹染色体の早期分
離に起因することが示唆された.卵形成過程の第一減数分裂前期か
ら中期にかけて起こる異常が,胚発生過程における細胞分裂異常を
伴う胚発生能の低下を引き起こすと考えられる.repro57( -/-)雌マウスのさらなる解析は,高齢不妊患者に多く見られる染色体分離異常の解明の一助となり得る