O-9 タイムラプス動画を基にした AIによる出産可能胚予測評価モデルの確立
2022年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:若杉 梓1)・魏 興強1)・宮塚 功2)・山上 一樹1)・岸 加奈子1)・片田 雄也1)・古橋 孝祐1)・江夏 徳寿1)・大月 純子1)・塩谷 雅英1)
1) 英ウィメンズクリニック
2) ネクスジェン株式会社
Abstract
【目的】
着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)は生検を必要とすることから胚への侵襲を避けることが出来ない.また,保険適用外であることから経済的負担は小さく無い.一方,雌雄前核それぞれの大きさを観察・比較することで,出産の可能性が高い胚を非侵襲的に予測することが可能であるという報告がある(大月ら,2019 Fertil Steril).しかしながら,この手法は雌雄前核の観察に多大なマンパワーを必要とすることから,臨床上の運用には問題があった.そこで,人工知能を用いて前核出現からPNMBDまでの動的な解析を自動化し,臨床上実用可能な出産可能胚予測評価モデルの確立を試みた.
【方法】
2020年1月~ 2020年9月の期間,当院において,単一凍結融解胚盤胞移植を行った369周期を対象とし,後方視的検討を行った.
人工知能(AI)が,タイムラプス培養器で得られた画像を用いて,前核出現からPNMBD にいたるまでの両前核の面積を経時的に測定し,PNMBD 直前と8時間前の両前核の面積をそれぞれ比較することで,出産可能胚を予測した.予測した胚の臨床妊娠・出産率の正解率には混同行列を用いた.
【成績】
AIが出産可能胚と判断したのは,365個中112個(369個のうち前核消失時探知不能4個)であった.この112個の胚の移植あたり臨床妊娠率(陽性的中率)は52.3%(58/112)となった.一方,AIで出産できないと判断された胚による移植後の非妊娠率(陰性的中率)は54.7%(139/254)であった.混同行列を用いた正解率は54.0%あった.また,AI が出産可能胚と判断した112個の胚の移植あたりの出産率は43.2%(48/112)であった.一方AIで出産できないと判断された胚による非出産率は62.6%(159/254)であった.混同行列を用いた正解率は56.7%であった.
【結論】
AIの陽性的中率は,日本産婦人科学会が実施しているPGT-A特
別臨床研究の中間報告よりやや低い値だった.一方,出産率の陰性的中率が62.6%であることから,まだ改善の余地はあるものの,AIを用いる事によって非侵襲的かつ低コストで移植胚を選別できる可能性が示唆された.AIは未だ開発途中のものであり,AIへの教師データを増やしていき学習を深めることで正解率の上昇が期待される.今後,AIを用いた前方視的研究とPGT-A特別臨床研究の出産率の比較により,より有意義な検討を行っていきたい.