Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-9 低乳酸培養液を用いた胚培養成績の比較検討

学術集会 一般演題(口頭発表)

2023年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:籠橋 茜・阿部 礼奈・角本 知世・古橋 孝祐・岩﨑 利郎 ・伊藤 宏一・岡本 恵理・苔口 昭次・塩谷 雅英

医療法人社団 英ウィメンズクリニック

Abstract

【目的】
富士フイルム和光純薬社のCSC-NXは培養液中の過剰な乳酸蓄積を防ぎ、代謝ストレスを減らすことを目的として開発された低乳酸濃度培養液である。今回我々はCSC-NXと従来の培養液の培養成績を比較検討したので報告する。

【方法】
2022年10月から2023年3月に当院で採卵を行った117症例(n=1174)について、cIVF症例は回収卵数7個以上、ICSI症例はMⅡ卵数4個以上を対象とした。cIVF症例は媒精4時間後から、ICSI症例は精子穿刺後からCSC-NX(CN群)(n=555個)とOrigio社SAGE 1-step(SAGE群)(n=619個)にランダムに分けてsibling培養した。受精率、分割率、分割期良好胚率、胚盤胞発生率(Day5)、良好胚盤胞率(Day5)を比較し、カイ二乗検定を用いてp<0.05を有意差ありとした。なお、分割期良好胚はVeeck分類の4cellG2以上、良好胚盤胞はGardner分類のG3BB以上とした。

【結果】
検討対象の妻平均年齢と当院平均ART回数はcIVF25症例では35.5±5.3歳と2.8±1.9回であり、ICSI92症例では34.2±4.6歳と1.9±1.4回であった。cIVF症例におけるCN群とSAGE群の培養成績は受精率(82.0% vs 81.8%)、分割率(87.2% vs 86.8%)、分割期良好胚率(52.6% vs 57.1%)、継続培養胚当たりの胚盤胞発生率(59.8% vs 54.9%)、施行卵数当たりの良好胚盤胞率(21.8% vs 20.3%)と、受精卵数当たりの良好胚盤胞率(26.6% vs 24.8%)となり、両群に有意な差を認めなかった。次にICSI症例においては受精率(83.6% vs 85.4%)、分割率(92.6% vs 95.3%)、分割期良好胚率(50.2% vs 55.9%)、継続培養胚当たりの胚盤胞発生率(61.2% vs 54.4%)で両群に差を認めなかったが、施行卵数当たりの良好胚盤胞率(29.6% vs 21.7%)と、受精卵数当たりの良好胚盤胞率(35.4% vs 25.4%)はCN群で有意に高くなった(P<0.01)。

【考察】
ICSI症例において低乳酸濃度培養液を使用することで良好胚盤胞率が有意に上昇しその有用性が示唆された。胚の発生における代謝産物として細胞内外に乳酸が蓄積される。培養液中の乳酸濃度が低い環境では乳酸によるストレスが軽減され、質の高い胚盤胞が増えたのではないかと考えられた。

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