O-8 凍結保存タンクの表面温度の監視はタンク事故の検知に有効である
2021年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:小橋 朱里1)・水野 里志1)・入江 真奈美1)・中西 麻実1)・佐藤 学2)・福田 愛作1)・森本 義晴3)
1) IVF 大阪クリニック, 2) IVF なんばクリニック, 3) HORAC グランフロント大阪クリニック
Abstract
【目的】
胚の凍結保存は生殖補助医療に欠くことの出来ない技術の1つであ
り,それに伴う凍結保存タンクの管理は極めて重要となる.また,海
外での事例が示すように一度タンクの事故が起きればその被害は深刻
である.これまでに我々は,重大なタンク事故につながる真空漏れを起こしたタンクは15分以内に表面が結露することを明らかにし,この現象を監視することはタンクの事故検知に有効であると考えた.今回我々は,真空漏れを起こしたタンク表面の温度を経時的に測定した.さらに,検出された温度変化の検知によるタンク監視システムの有効性を検証した.
【方法】
廃棄予定の10Lタンク((株)クライオワン,DR-10A)に液体窒素(LN2)を満タンに入れ,メールによる異常通知機能を備えたデータロガーの温度センサーをタンク表面に設置した.実験は室温が約24℃にコントロールされている室内で行い,タンク表面温度の測定は1分間隔で実施した.また,タンク表面の温度が20度以下になったときにメールが送信されるようにデータロガーを設定した(メールの送信間隔は3分に設定).タンク表面温度が室温(23.8℃)になっていることを確認した後に,タンク表面に約2mmの穴を開け,真空漏れを誘起した.その後,LN2 が完全に蒸発するまで表面温度の測定とメールの確認を行った.
【結果】
タンクの表面温度は,真空漏れ誘起から3分後に低下し始め,
20℃以下を記録したのは6分後(19.1℃),10℃以下は11分後(8.8℃),最低温度の-0.5℃を記録したのは93分後と99分後であった.なお,LN2 が完全に蒸発したと考えられる約400分後の表面温度は5.6℃であった.異常を知らせるメールは,真空漏れ誘起から6分後に初めて受信され,それ以降3分間隔で測定終了まで合計132通が受信された.
【考察】
一般的に使用されている,LN2 の減少を検知する監視システムでは,真空漏れ後にLN2 が大きく減少してからでないと通知が行われない.これに対して,タンク表面温度の監視は,液体窒素の減少がほとんど起きていない真空漏れ直後に異常通知が可能で,実際に今回の実験では真空漏れ発生から6分後に異常メールが受信された.異常通知が早いという結果は,真空漏れ発生時に卵子や胚などを救出するまでに十分な時間が確保できることも示している.10Lタンクを使用した今回の結果では,異常通知からLN2 が完全に蒸発するまでは約400分であったが,タンクの容量が大きくなればこの時間はさらに長くなると考えられる.また,今回のシステムでは,繰り返しのメール受信が確認された.必ず最初のメールに気が付くわけではないので,今回の繰り返しの通知はタンクの真空漏れによる事故発生時の通知に非常に有用である.以上より,凍結保存タンクの表面温度の視はタンク事故の検知に有効な方法であることが示された.