体外受精における精液酸化還元 電位を用いた受精予測
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:長谷川 久隆 1)・鈴木 亮祐 1)・塚本 佳奈 1)・菊本 晃代 1)・小林 充1) ・京谷 利彦 1) ・西尾 愛美 1) ・湯村 寧 2)・櫻井 友義1)・齋藤 優 1) ・小林 淳一 1)
1)神奈川レディースクリニック
2)横浜市立大学付属市民総合医療センター 生殖医療センター
Abstract
【目的】
酸化ストレスは,精子の細胞膜やDNAの損傷を引き起こし男性不 妊の原因の一つとなることが報告されている.Mioxsys TM systemは 精液中の酸化ストレスを酸化還元電位(ORP; mV)として数値化し, 酸化力と抗酸化力を総合的に評価できる.本研究では,採卵初回で split媒精を選択した周期において,ORP値を用いた受精予測が可能 か後方視的に検討した.
【方法】
2019年4-7月のsplit 施行19周期, 成熟卵266個を対象とした.精液 ORP値を測定し,精子濃度で割った値を標準化ORP(sORP; mV/106 sperm/ml)とし,①精液所見の各種パラメーターとsORP値の相関,② cIVF受精予測因子探索の為の多変量解析およびROC曲線によるsORP カットオフ値の算出,③ sORPカットオフ値前後のcIVFおよび ICSIの受精率について解析した.
【結果】
平均年齢は 35.7±4.3歳であった.平均sORP値は 2.1±2.0 mV/106 sperm/ml で あ った. 受 精 率 は cIVF 67.0%(75/112),ICSI 91.6% (141/154)であり,cIVF で有意に低率であった.相関解析の結果, sORP値は精液所見の各種パラメーターのうち,精液量,頭部振動数に 対し正の相関を示し,総精子数,総運動精子数,精子濃度,運動精子 濃度,運動率に対して負の相関を示した.多変量解析の結果,sORP値 はオッズ比0.42(P=0.001)であった.cIVFの受精におけるsORP値のカッ トオフは2.23 mV/106 sperm/mlであり,AUCは0.69であった.cIVF における受精率は,sORPカットオフ値未満の症例(79.2%)に比較し,カッ トオフ値以上の症例(40.0%)で有意に低率であった.ICSIにおける受精 率は, カットオフ値未満の症例(94.1%)と, カットオフ値以上の症例 (86.8%)で有意な差は認められなかった.
【考察】
sORP値は精子数,運動率と負の相関を示し,cIVFにおける受精の 予測因子となり得ることが示唆され,男性不妊症に関する指標として有用 であると考えられた.sORPカットオフ値を2.23 mV/106 sperm/mlとし た場合,cIVFではカットオフ以上の症例で受精率が有意に低下し, ICSIでは受精率に有意な差は認められなかった.初回split 適応症例の うちsORP値が2.23 mV/106 sperm/ml以上の症例では,ICSIを選択 することで受精率を大きく向上させる可能性が示唆された.