タイムラプスを用いたヒト1前核胚 および2.1前核胚の解析
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:糸井 史陽・藤田 京子・山口 桂子・関友 望・秋田 寛佳・藤井 詩子・池田 沙矢子・佐野 美保
小牧市民病院 生殖医療センター
Abstract
【目的】
体外受精や顕微授精後に, 前核が1個のみの胚(1PN)や通常サイ ズの前核2個と小さい核1個が観察される胚(2.1PN)が散見され, そ れらの胚盤胞の中には正常な胚が含まれており, 妊娠および出産例が 報告されている(Capalbo et al., 2017).当院でも1PNと2.1PN由来 胚はタイムラプスにて, 前核サイズの測定や胚盤胞までの胚発生状況 の観察を行っている.今回, 1PNと2.1PNの発生頻度および胚発生 率などを解析したので報告する.
【対象と方法】
2018 年6 月から2019年7月に当院で採卵および体外受精(cIVF)ま たは顕微授精(ICSI)を行った129周期496個を解析対象とした.まず, 受精操作後, タイムラプス画像にて受精判定を行い,1PNと2.1PNの 前核サイズを測定し,その発生頻度や胚発生率を解析した.
【結果】
1PNの発生頻度は 2.4%で,受精方法別では,cIVFで5.9%とICSI (0.6%)よりも有意に高かった(P<0.01) 1PNの平均サイズは, 面積 729μm 2 , 直径31μmであった.1PNの胚発生率は,2PNと比べて低 い傾向であったが, その中で胚盤胞に成長した1PNの平均サイズは, 面積836μm 2 ,直径34μm であった.次いで,2.1PNの発生頻度は,2.4% (体外受精1.8%,顕微授精2.8%)で,1PNや多前核(4.6%)と同程度で あった.2.1PNの小さい核の平均サイズは,面積155μm 2 ,直径14μm,2.1PNの通常様の前核は, 面積, 直径ともに正常受精卵のそれと同等 であった.また,2.1PNが観察された周期の女性年齢は 40.5歳で,2.1PNのなかった周期(37.7歳)よりも有意に高かった(P<0.05).2.1PN の胚発生率は, 胚盤胞形成率54.5%, 良好胚盤胞率9.1%で,2PN(69.8%,36.0%)と比べて有意差はなかったものの低い傾向であった.
【考察】
1PNの発生は受精方法が影響し,2.1PNは女性年齢が影響してい る可能性が示唆された.また,最近1PN由来胚に関する大規模なデー タが報告され胚盤胞を移植すると2PN由来の胚盤胞と同等の臨床成 績であることが報告されていること(Si et al., 2019),本邦では臨床で の着床前検査などの解析は原則禁止されているため,1PN 胚や 2.1PN 胚の選別方法として前核サイズの測定や, 胚盤胞まで培養することが 有効である可能性が考えられる.しかし,まだ報告例が少ないことから, これらの胚を移植する場合には患者に対してしっかりと説明をしたうえ で2PN由来胚よりも優先順位を下げるなど慎重に扱う必要がある.