Papers and Abstracts

論文・講演抄録

ヒト胚では8-16分割になる際に 1-4番目に分裂を開始した細胞が ICMになる

学術集会 一般演題(口頭発表)

2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:大月 純子1)2)・岩崎 利郎1) ・江夏 徳寿1)・片田 雄也1)・古橋 孝祐1)・塩谷 雅英 1)

1)英ウィメンズクリニック
2)岡山大学生殖補助医療技術教育研究センター

Abstract

【背景】
ヒト胚は受精から5日目に胎児になる内細胞塊と主に胎盤となる栄養 外胚葉に分かれるが,4日目までの分割球の運命は全く分かっていない. Refractile body(RB)は,ヒト卵細胞質内に出現する異常形態の一つ であり,脂質を含む顆粒様物質の複合体であり,リポフスチンの自家蛍 光を有し, 大きなものは周囲に膜形成があることが透過型電子顕微鏡 観察により判明している(Otsuki et al., JARG, 2007).また,RBは胚 発生過程で消失することなく,大きさの変化も殆ど見られない.今回我々 は, タイムラプス観察を行った受精卵のうち, 大きなRBを含む割球を 後方視的に追跡し,ICMに至る細胞の定義を発見したので報告する.

【方法】
2013年6月から2018年12月までの期間にタイムラプス観察を行い胚盤胞に到達した胚のうち, 直径5μm 以上の大きなRBを有し,2-4-8-16 (morula)の正常分割後に胚盤胞になった胚のうち,胚盤胞まで RBの 挙動を追うことが出来た201個の胚を対象とし,分割順序と位置に関す る解析を行った.

【結果】
2-4細胞時の1番目,2番目に分割した割球内に存在した RBが ICM に行く確率はそれぞれ,20.0%(20/100), 18.6%(19/101),4-8細胞時 の1-4番目ではそれぞれ,24.1%(13/54), 28.1%(16/57), 10.3%(4/39),
11.8%(6/51),8-16細胞時の1-8番目ではそれぞれ,35.1%(13/37), 39.8%(8/26), 26.9%(7/26), 30.4%(7/23), 5.3%(1/19), 4.8%(1/21), 4.0%(1/25), 0%(0/24)であった.クラスター分析にて,早く細胞分裂 が始まったクラスターがICMになりやすく,分裂期によって有意な差が あった.また,早く分裂を開始した上位50%が有意にICMに到達する ことが判明した(p<0.001).ICMをエンドポイントとした単変量ロジス ティック回帰分析では 4-8cell分割時,8-16cell分割時ともに有意に ICMを予測する因子であったのに対し,多変量ロジスティック回帰分析 では4-8cell分割時が交絡因子として除外され,8-16cell分割時のみが 予測因子(オッズ比:16, CI: 4.1-63, p<0.001)となった.

【結論】

本研究の結果から,ICMになる細胞は 8-16分割時に決まり,8-16細 胞時に分割の早いものから順番に1-4番目までに分裂した細胞が ICM に辿り着くことができる能力を獲得することが明らかとなった.

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