Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-4 マウス卵母細胞質内cAMP濃度上昇による卵の異常分裂およびクロマチン凝集塊形成

学術集会 一般演題(口頭発表)

2023年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:赤尾 咲来1)・肖 維2)・大月 純子 1),2),3)・

1)岡山大学農学部応用動物科学コース,2)岡山大学大学院環境生命自然科学研究科,3)岡山大学生殖補助医療技術教育センター

Abstract

「目的」
環状ヌクレオチドであるcAMPは、哺乳類において卵子の成熟の制御において重要な役割を果たしており、cAMP濃度の上昇が減数分裂第一期での分裂停止の維持に必要である。しかし、cAMP濃度の上昇によって卵の異常分裂が引き起こされることが報告されており、そのメカニズムについては不明である。本研究ではcAMP濃度上昇が第一減数分裂時の卵母細胞にもたらす影響について検討した。
「方法」
過排卵処理を行ったICR雌マウスのGV卵を採取後GVBDした卵を、非特異的PDE阻害薬である3-isobutyl-1-methylxanthine(IBMX)または内因性cAMPの作用をもつdibutyryl-cAMP(dbcAMP)にて20時間培養した。濃度はIBMXが0, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 2.5, 3.0mMの7グループ、dbcAMPが0, 5, 10, 15, 20, 25, 30, 35, 40mMの9グループで検討を行った。紡錘体および細胞分裂の動態観察にはtime-lapse観察システム(PrimoVision, VitroLife)を使用した。また、薬剤除去後の紡錘体形成を確認するため、DAPIを用いたDNA染色および抗α-tubulin抗体を用いた免疫蛍光染色を行った。
「成績」
IBMX 2.0~3.0mM添加区で異常な卵細胞分裂が見られ、濃度に比例し異常分裂の割合も増加した(2.0mM: 14.3%, 2.5mM: 33.7%, 3.0mM: 55.6%)。また、これは紡錘体のローテーション不全によって生じ、卵が二分(一方は大きな極体)することがtime-lapse観察システムによって判明した。同時に、IBMX 2.0~3.0mM添加区ではクロマチン凝集塊(AC)の形成も見られ、濃度依存的にAC形成頻度が上昇した(2.0mM: 22.4%, 2.5mM: 64.4%, 3.0mM: 100%)。このAC形成は、分裂失敗および異常分裂が起きた卵子でも観察された。また、dbcAMPでも同様に15~40mM添加区で濃度依存的なAC形成が観察された(15mM: 2.5%, 20mM: 3.6%, 25mM: 35.0%, 30 mM: 77.9%, 35 mM: 90.7%, 40mM: 100%)。また、IBMXおよびdbcAMPなしの培養液で洗浄後4時間培養後、紡錘体を再形成し、紡錘体-AC形成は可逆的に起こることが確認された。
「結論および考察」
本研究より、細胞質内のcAMP濃度の上昇による異常な細胞質分裂は紡錘体のローテーション不全によることが判明した。また、ヒト卵母細胞やブタ卵母細胞で報告されているACは、通常マウス卵母細胞には存在しない現象であるため、ヒト卵母細胞およびブタ卵母細胞でのAC形成がcAMP濃度の上昇と関連があることが考えられる。ヒトやブタ卵母細胞の紡錘体は卵表層に対して垂直に形成されることから、卵細胞質内cAMP濃度の上昇に起因する異常分割は起こらないことが推測される。なお、本研究で判明したcAMP濃度上昇によるAC形成は、核置換(細胞質置換/ミトコンドリア置換)法のマウスモデルとなり、ミトコンドリアの持込がより少ない安全な方法としての有用性が確認できており、ヒトへの応用が期待される。

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