Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-33 マウス精子を用いた凍結融解成績向上の検討

学術集会 一般演題(口頭発表)

2021年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:森 夏帆・石原 萌絵香・田﨑 秀尚・大月 純子

岡山大学大学院環境生命科学研究科

Abstract

【背景・目的】
精子は凍結過程において様々な傷害を受けやすく,融解後の運動
性,IVFに用いた際の受精率や胚発生率の低下につながることが知
られている.特にマウスにおいては他の動物種と比較して耐凍性が低
く融解後の運動率は20%を下回る.これらの低下を最小限に抑える
ために現在も精子保護効果を持つ物質が模索されている.本実験で
は浸透圧調整,耐凍性を持つことで知られているベタインに着目し
た.ベタインは培養細胞の凍結保存において,浸透圧や氷晶形成に
対する保護効果が報告されているが精子の凍結保護効果については
明らかとなっていない.よって本研究では,マウス凍結精子融解後
の運動性改善を目的とし,凍結液へのベタイン添加の効果を検討した.
【材料・方法】
既存法の凍結液(18%ラフィノース,3%スキムミルク)をコントロール区とし,ベタインをそれぞれ0.5%,1%,2%,4%に調整した凍結液と融解後の運動性を比較した.供試動物にはICR 雄マウス(9
〜12週齢)を,凍結保存容器にはクライオチューブを使用した.凍結
融解のプロトコールは理研BRCの「マウス精子の凍結保存方法と凍
結精子を用いた体外受精」に準じた.融解1時間後に精子解析システ
ムにて運動率をはじめとした各種パラメーターを解析した.
【結果】
融解後の運動率は,コントロール区(13.0%)と比較してベタイン1%添加区で19.0%(p = 0.007),2%添加区で18.0%(p = 0.021)と有意に増加した.直線速度,曲線速度,平均速度,直線性,頭部振幅,頭部振動数には有意な差は見られなかったものの(p > 0.05)1%,2%添加区でコントロール区と比較して高値を示した.
【考察】
本研究の結果からベタインにはマウス精子を凍結傷害から保護す
る効果があることが示唆された.ベタインは培養細胞の凍結におい
て浸透圧や氷晶形成からの保護効果が報告されていることから精子
にも同様の効果があると考察する. また,0.5 %添加区( 運動
率:17.0%,p = 0.191),4%添加区(運動率:8.0%,p = 0.218)では
有意な差が見られなかったことから保護効果は濃度によって変動し,
最も高値を示したベタイン1%が至適濃度であると考えられる.精子
は凍結過程において浸透圧や氷晶形成以外にも酸化や低温傷害など
様々なストレスを受ける.今後は凍結液だけでなく凍結融解の過程に
も改良を加え,それらのストレスを軽減させることで凍結融解精子の
さらなる運動性の向上を目標としている.

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