O-31 CASAした全精子のパラメータ評価による正常受精率予測
2021年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:田口 新1)・梅原 崇2)・島田 昌之2)・向田 哲規1)
1) 広島HART クリニック, 2) 広島大学大学院統合生命科学研究科
Abstract
【目的】
体外受精において正常受精率低下の原因として,不受精および多
精子受精があげられる.多精子受精となる原因は,卵子透明帯の多精子侵入防御機構の不成立と,精子が2個以上同時に受精してしまうことが考えられる. 前者は卵側の要因で体外受精時に改善することが難しいが,後者は精子数を調整することで正常受精率が向上できると
期待される. 反対に受精可能な精子数を予測できれば,すべての卵を受精させることも可能になる. 今回,computer assisted sperm
analysis( CASA)で得られた精子運動性データについて,通常用い
られる平均値ではなく,解析した全ての精子のデータを用いて体外受精の結果との関係を後方視的に解析し,未受精卵が少なくとも1個あった未受精症例及び多精子受精卵が1つは見られた多精子受精症例,そしてすべての卵が正常受精した症例に区分し,正常受精率の
予測因子となりうるパラメータを探索した.
【方法】
2020年8月〜2021年6月に体外受精(1wellに卵数4個)を行い,正常受精率が100%であった15周期をA 群,すべての卵が受精したが多精子受精が少なくとも1個認められた29周期をB 群,媒精4時間後に未受精と判定されrescue-ICSIを施行した28周期をC群とした.精子のCASAは精子運動解析装置SMAS(DITECT 社)を用いて実施し,各症例において平均値ではなく解析したすべての精子の各種運動性パラメータの値を統計解析に用いた.
【結果】
すべての卵が正常受精したA 群を用いて,CASAで得られたパラメータが正規分布に従っているかを解析した結果,直線速(VSL),
曲線速度(VCL),頭部振幅(ALH)は正規分布に従っていたが,他
のパラメータは従っていなかった.そこで,これら3種のパラメータに
着眼し各群間の中央値を比較した結果,VCLとALHはB 群>A 群>C 群の順であったのに対し,VSLはC 群>A 群>B 群であった. さらに,3者各々の相関関係はいずれの群においてもVCLとALH 間に1>r>0.9という強い相関関係がみられた.そこで,すべての卵が受精したA 群において,各症例において最大VCL の精子は受精したと仮定し,最大VCLの最低値 168.317を基準として,各群に最低値以上の精子割合を算出した.その結果,A 群6.3%,B 群8.9%,C群3.6%であった.
【考察】
CASAでは様々なパラメータが得られるが,VCLとALH 値が体外受精の結果を予測するのに有用であると考えられた.さらに,自動算出される平均値ではなく,解析した全精子のVCLやALHを用いて,受精可能な振幅をもった曲線速度で運動する精子数を算出する重要性が示された.この全精子データの解析により,個々の症例に適した「最大数の卵を正常受精させる」精子数の体外受精が可能になると期待される.