O-30 妊孕性温存療法に使用する凍結保存タンクの管理に関する調査(厚生労働科学研究補助金(がん政策研究事業)研究班 (20EA1004))
2022年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:水野 里志1)・泊 博幸2)・沖津 摂3)・菊地 裕幸4)・沖村 匡史5)・古山 紗也子6)・薮内 晶子7)・谷口 憲8)・田村 功9)・太田 邦明10)・福田 雄介11)・洞下 由記6)・鈴木 直6)
1) IVF 大阪クリニック,2) アイブイエフ詠田クリニック,3) 楠原ウイメンズクリニック,4) 仙台ART クリニック,5) 加藤レディスクリニック,6) 聖マリアンナ医科大学,7) STEMCELL Technologies,8) 谷口眼科婦人科,9) 山口大学,10) 東京労災病院,11) 東邦大学
Abstract
【目的】
がん・生殖医療で凍結された生殖細胞は,凍結保存タンク内に
長期保存されるため,タンクの管理は非常に重要である.がん・生殖医療におけるタンクの管理は,生殖医療におけるタンク管理と同様と考えられるが,その現状は明らかでない.本調査では,妊孕性温存療法実施施設におけるタンク管理の現状を明らかにするために,不妊治療施設に対してアンケート調査を実施した.
【方法】
本調査は,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得て
(第5093号),日本産科婦人科学会ART 登録622施設を対象に行
われた.調査はオンラインで行い,妊孕性温存療法における生殖細胞の保存に関する93 の質問が設けられていた.今回はその中で,タンク管理に関する項目,液体窒素残量の監視方法と頻度,タンクの使用期限,タンク警報機の有無,タンクに異常があった場合の対応について集計した.
【結果】
352施設から回答があった.液体窒素残量は,72.2%の施設が
液面,5.1%が重量,10.5%が液面と重量の両方により監視していた.これに対して12.2%は,残量の監視なしに補充のみ行っていた.監視頻度は,92.0%が週に1回以上監視していることに対して,8日以上に1回が2.6%,頻度を決めていないが5.4%であった.最長の間隔は,一ヶ月に1回であった.タンクに使用期限を設けている施設は8.5%で,その期限は,5年未満が3.3%,5年以上~ 10年未満が50%,10年以上が46.7%であった.タンクに警報機を付けている施設は9.7%であった.タンクに異常が生じた時の対応を決めている施設は45.2%で,その対応内容は,責任者へ報告,予備タンクへの移動,保険への加入,患者から同意を得るであった.
【考察】
自然蒸発でタンク内の液体窒素が満タンから空になるまで数か月である.このため,回答通りの運用ができているのであれば,回答施設では自然蒸発によるタンク事故は起きないと考えられる.一方,半分以上の施設でタンクに異常が発生した場合の対応が決められていないことが明らかにされた.さらに,対応が決められていると回答した施設であっても,対応内容が生殖細胞の継続保存を意図したものは「予備タンクへの移動」のみであった.このように,タンクの異常を想定した運用は全ての施設に浸透しておらず,今後,事故を想定したタンク管理についての啓発や安全指針の作成が必要と考えられた。