Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-3 ヘテロ接合型欠損個体における加齢による退行性変化 -組織学的・生理学的解析-

学術集会 一般演題(口頭発表)

2023年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:若松 美沙紀1)・青木 勇斗2)・園 菜々美3)・藤原 靖浩4)・国枝 哲夫5)・大月 純子1),3),6)・

1)岡山大学 農学部応用動物科学コース,2)岡山赤十字病院 検査部生理検査第二課 ,3)岡山大学大学院 環境生命自然科学研究科,4)東京大学 定量生命科学研究所,5)岡山理科大学 獣医学部,6)岡山大学 生殖補助医療技術教育センター

Abstract

【目的】
Rnf212は減数分裂の組み換えに関与する重要な因子であり、repro57マウスはRnf212遺伝子を欠損した不妊症モデルマウスである。repro57ホモ接合型変異雄マウスでは減数分裂が第一分裂中期で停止することで無精子症になるが、repro57ヘテロ接合型変異雄マウスでは精子形成に問題はなく、自然交配により産仔を獲得できる。しなしながら、ヘテロ接合型の遺伝子変異の場合の加齢による精子形成能・精子機能への影響は不明である。よって本研究ではrepro57ヘテロ接合型雄マウスの加齢に伴う組織学的変化、および産仔数への影響を調べることを目的とした。
【方法】
9-20週齢マウスを若齢群、45-50週齢マウスを老齢群とし、repro57ヘテロ接合型若齢および老齢マウス、野生型若齢および老齢マウスの精子濃度および精子運動率を精子運動解析システム(SMAS, ディテクト社)にて調べた。また、精巣重量の比較、HE染色画像による精細管の解析により、repro57ヘテロ接合型雄マウスの老化による精細管の退行性変化を調べた。さらに、過排卵処理した野生型雌マウスとrepro57ヘテロ接合型若齢および老齢、 野生型若齢および老齢マウスの交配による産仔数を比較した。
【成績】
野生型マウスでは若齢、老齢マウス間に精子濃度および運動性に有意な差が見られず、野生型若齢マウスとrepro57ヘテロ接合型若齢マウス間においても有意差が見られないのに対し、repro57ヘテロ接合型老齢マウスでは、野生型若齢および老齢に比べ、いずれも有意な低下が見られた。精巣重量においてもrepro57ヘテロ接合型老齢マウスでは同様に他群すべてと比較して有意な減少が認められた。HE染色による組織染色の結果、repro57ヘテロ接合型老齢マウスの精細管面積、精細管面積あたりの円形精子細胞数および伸長精子細胞数は、repro57ヘテロ接合型若齢と野生型若齢マウス間に有意な差は見られないものの、repro57ヘテロ接合型老齢マウスではヘテロ接合型若齢マウスに比べて有意な減少が認められた。また、精細管の1横断面あたりに存在した空胞の総面積においてrepro57ヘテロ接合型老齢マウスは他群に比べ有意な増加が認められた。産仔数はrepro57ヘテロ接合型老齢マウスでは他群と比較し有意に減少した。
【結論】
本研究よりrepro57ヘテロ接合型マウスでは加齢による顕著な老化様退行性変化が認められた。また、repro57ヘテロ接合型老齢マウスにおける産仔数の減少は、空胞形成、精子濃度と運動率の低下に起因すると考えられた。本研究の結果より、他の精子形成に関連する遺伝子変異においてもヘテロ接合型を有する症例では加齢による精子形成機能低下が起こる可能性が考えられ、本研究結果はヘテロ接合型の加齢に起因する造精障害解明の一助となり得る。

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