Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-22 がん患者の妊孕性温存療法における体外成熟培養(Onco-IVM)の有用性

学術集会 一般演題(口頭発表)

2023年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:境 眞実 1)・樽井 幸与 1)・井谷 裕紀 1)・水野 里志 1)・福田 愛作 1)・森本 義晴 2)・

1)医療法人三慧会IVF大阪クリニック,2)医療法人三慧会HORACグランフロント大阪クリニック

Abstract

【目的】
生殖腺毒性の報告がある化学療法や放射線治療が必要ながん等の患者は治療後に妊孕性が低下する可能性があるため,妊孕性温存目的の卵子凍結保存(Onco-卵子凍結)等が推奨される.可能な限り多くの卵子を獲得するためには卵巣刺激を用いた採卵が推奨されるが,原疾患治療に緊急を要する場合は困難である.原疾患治療迄に猶予が無い患者や女児に対しては卵巣組織凍結が行われているが,実施可能な施設が限られ,報告も少ない.体外成熟培養(IVM)は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)症例などに対して臨床応用されている一方で,無刺激かつ短期間で採卵が可能という特徴がある.そこで当院では原疾患治療迄に猶予がなく卵巣刺激を用いた採卵が不可能と考えられた症例に対し妊孕性温存目的のIVM(Onco-IVM)を行っている.本研究ではOnco-IVMとOnco-卵子凍結を比較し,Onco-IVM成績の現状を示すとともに,Onco-IVMとPCOS症例などに対して行ったIVM(normal-IVM)を比較し,患者背景の違いによるIVM成績への影響について検討した.
【方法】
2006年1月から2023年2月のOnco-卵子凍結38症例47周期,2020年2月から2023年2月のOnco-IVM8症例8周期を対象とした.それぞれ年齢,当院初診から採卵迄の日数,採卵数,成熟卵数,成熟率を比較した.またOnco-IVMと同期間のnormal-IVM18症例19周期とOnco-IVMの年齢,採卵数,成熟率を比較した.
【成績】
Onco-卵子凍結とOnco-IVMにおいて平均年齢(29.6±8.3歳vs.27.0±7.9歳)に有意差はなかった.またOnco-卵子凍結よりOnco-IVMの方が初診から採卵迄の日数(16.9±19.0日vs.2.3+±1.2日,p<0.05)は有意に短かった.採卵数(11.4±9.9個vs.5.5±3.4個,p<0.05)と成熟卵数(9.9±9.0個vs.1.0±0.5個,p<0.05)は有意に少なく,成熟率(87.0±19.7%vs.29.2±32.2%,p<0.05)も低かった.また,normal-IVMとOnco-IVMとの比較では年齢(31.6±4.0歳vs.27.0±7.9歳)に差は無かった.採卵数(14.7±8.4個vs.5.5±3.4個,p<0.05)はOnco-IVMの方が有意に少なかったが,成熟率(35.5±19.8%vs.29.2±32.2%)に差は無かった.
【結論】
Onco-IVMにおける初診から採卵迄の期間は,Onco-卵子凍結と比較して有意は短く,目的とする準備期間の短い採卵が可能であることが示された.Onco-IVMの採卵数は卵巣刺激を実施していないため,Onco-卵子凍結と比較して有意に少なかったものの,採卵及び成熟卵の獲得が出来た.Onco-IVMの成熟率はOnco-卵子凍結と比較して有意に低かった.一方でOnco-IVMの採卵数はPCOSの既往がある患者が多いnormal-IVMと比較して有意に少なかったが,成熟率に差は見られなかった.このため,Onco-IVMから得られた卵子は,少なくともnormal-IVMと同等の成熟能を有していることが示された.以上よりOnco-IVMは,成熟卵数の多寡を問わない程に原疾患治療迄に時間的猶予がない患者に対する妊孕性温存療法として有用であると考えられた.

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