Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-21 無加湿型培養器における粘度の異なるオイルが胚培養へ与える影響

学術集会 一般演題(口頭発表)

2022年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:宮本 若葉1)・4)・服部 裕充1)・4)・青野 展也1)・2)・3)・4,・小泉 雅江1)・戸屋 真由美1)・五十嵐 秀樹1)・朝山 雄太5)・八尾 竜馬5)・京野 廣一1)・2)・3)・4)

1) 京野アートクリニック仙台,2) 京野アートクリニック高輪
3) 京野アートクリニック盛岡,4) 日本卵巣組織凍結保存センター(HOPE)
5) 扶桑薬品工業株式会社

Abstract

【目的】
生殖補助医療実施下でタイムラプス機能を持った無加湿型培養器の使用が増加している.無加湿型培養器は浸透圧変化が大きいと言われており,シングルステップメディウムを使用する場合は胚発生に影響する可能性がある.本研究では,粘度の異なる2つのミネラルオイルの品質検査,pH,浸透圧変化およびART成績への影響について検討を行った.
【方法】
オイルの品質検査は硫酸呈色物試験と過酸化物価試験を行た.
検討1:EmbryoScope+TMを用い,Light oi(l LO),Heavy oi(l HO)を使用した際の培養液のpHを培養Day(1 D1),Day(3 D3),Day(6 D6),浸透圧変化をインキュベート前,D3,D6で比較した.オイルの添加量は,LOは1.6mL,HOは1.6mLと3.0mLの3群で比較した.検討2:2019年1月から2021年12月までに採卵した症例を対象とした.2019年から2020年11月までの2799症例は1.6mLのLO(L 群)を,検討1の結果をもとに2020年12月から2021年12月までの1308症例は3.0mLのHO(H 群)を使用し,両群における培養成績,臨床成績の比較を行った.着床前遺伝学的検査を実施した症例は除外した.全症例最長7日間胚培養を行った.統計解析はFisher’s exact test,Mann–Whitney U testを用い,P<0.05を統計学的有意差とした.
【成績】
硫酸呈色物試験の結果,吸光度はLOで0.2377,HOで0.2317
と差はなかった.過酸化物価試験の結果では,100℃,90分加熱において,LOで0.278meq/kg の過酸化物価の上昇が認められたが,HOでは変化がなかった.検討1: pHはD1で3群ともに変化はなく,D3まで同様のpHを維持した.D6ではLOで0.012,1.6mLのHOで0.007,3.0mL のHOで0.002といずれも上昇したが,3.0mL のHOで最も上昇幅が小さかった.浸透圧はD3,D6でそれぞれ経時的に上昇したが,D6までの上昇幅はLOで16.2mOsm/kg,1.6mL
のHOで14.0mOsm/kg,3.0mLのHOで11.7mOsm/kgと,3.0mL
のHOで最も上昇幅が小さかった.検討2:L 群とH 群において妻年
齢に有意差はなかった(38.4 ± 4.5歳 vs 38.4 ± 4.5歳).胚発生に
ついて,胚盤胞到達率とD5胚盤胞到達率は両群に差はなかったが
[58.9%(5533/9398) vs 60.2%(2817/4677); 41.1%(3867/9398) vs40. 7%(1902/ 4677)],D6胚盤胞到達率はH 群で有意に高かった[17.7%(1666/9398) vs 19.6%(915/4677)].また,良好胚盤胞率はH 群で有意に高かった[28.5%(2679/9398) vs 30.5%(1428/4677)].臨床妊娠率,流産率は両群で差はなかった[46.9%(1096/2336) vs48.4%(469/969); 24.0%(263/1096) vs 23.0%(109/469)].
【結論】
無加湿型培養器では粘度の高いオイルを多い容量で使用することでpH や浸透圧を制御できることが明らかとなった.オイルによって胚盤胞到達率に差はなかったが,良好胚盤胞率が3.0mLのHeavy oilで有意に高かったことから,オイルを使用する際には粘度と容量を考慮することで,より安定した培養環境を保つ可能性が示唆された.

loading