メラトニンの卵巣加齢に対する予防 効果および投与開始時期の検討
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:田村 博史・城﨑 舞・田村 功・竹谷 俊明・杉野 法広
山口大学大学院医学系研究科産科婦人科学講座
Abstract
【目的】
卵胞数の減少や卵の質の低下に起因する卵巣の加齢は, 不妊領域 最大の課題であるが有効な対処法はない.我々は松果体ホルモンのメ ラトニンが卵胞液中に存在し, その抗酸化作用で卵子を保護している ことを報告してきた.近年メラトニンは, その抗酸化作用からアンチエ イジングホルモンとして注目されており,メラトニンの長期投与で卵巣の 加齢を予防できるかどうか,またメラトニンの投与開始時期の違いによ る効果を検討した.
【方法】
①13週齢雌 ICRマウスをメラトニン投与群(M 群)とコントロール群(C 群)の2群に分け,43週までメラトニン水(100μg/ml)または水を飲 水させ飼育し, 排卵数, 体外受精の受精卵数, 胚盤胞数, 卵巣組 織の卵胞数を計測した.卵巣組織より抽出した RNAを用いて, 各 遺伝子発現をマイクロアレイ法,PCR法にて検討した.
②投与開始時期の影響を見るため23週(M23群)または 33週(M33群) から43週までメラトニンを投与して同様の検討を行った.
【結果】
① M 群では, 排卵数は加齢に伴い減少したが,M 群では低下が軽減 していた.受精率, 胚盤胞到達率も加齢に伴う低下が M 群では軽 減していた.卵巣の各発育段階の卵胞(原始, 一次, 二次, 胞状) 数はC 群に比し,M 群で高値を示した.また, 加齢に伴い発現が 低下し, かつメラトニン投与でその低下が阻止される遺伝子群の解 析では,リボゾームのタンパク合成,抗酸化機構,DNA修復,オー トファジーに関与するものが抽出された.長寿遺伝子(sirtuin1,3) の発現およびテロメア長は M 群で増加していた.
② M23群では排卵数, 受精卵数, 胚盤胞数はC 群に比較し多かった. 一方,M33群ではC 群と差は認めなかった.
【考察】
メラトニンの長期投与によって, 加齢に伴う卵胞数, 排卵数の減少, 胚発育の低下が防止できた.抗酸化作用,リボゾーム機能維持,DNA 修復機構,sirtuin,テロメア,オートファジーなどの多様な機序がメラ トニンの卵巣加齢予防に関与している可能性がある.また, 卵巣加齢 の予防効果は 23週から開始では認めたが,33週から開始では認めず, 生殖期後半からのメラトニン投与では卵巣加齢予防効果に乏しいと思 われる.