O-19 精液中に観察された結晶は受精率や胚発生に影響を及ぼすのか-2例の症例報告-
2023年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:德田 愛未1),2)・辻 暖永1),2)・日比 初紀1),3)・福永 憲隆1),2)・浅田 義正1),2)
1)医療法人浅田レディースクリニック,2)浅田生殖医療研究所,3)協立総合病院泌尿器科
Abstract
【目的】ARTにおいて精液中に多数の結晶が観察される症例を経験した。しかしながら、これらの結晶の成分やARTの治療成績に影響を与えるのかは不明である。そこで患者背景や結晶の形から結晶成分を推測するとともに治療結果を追跡調査し結晶の析出がARTの治療成績に影響を及ぼすか調査した。
【方法】2022年に精液中に結晶の析出がみられた2症例を対象とし、精液所見・受精率・胚盤胞発生率・胚移植後の臨床妊娠を調査した。また、患者の既往歴や精液のpH・結晶の形状から結晶成分を推測した。
【成績】症例①: 妻29歳、子宮内膜症の診断あり。夫31歳、既往歴はなし。当院でのART実施前の精液検査での所見は運動精子濃度3.87×106/ml、運動率28.6%、pH8.2であった。ART実施時の原精液中には結晶は見られなかったが、精液処理後の精子混濁液で結晶が観察された。形状は棒状の形をしており大きさも約70㎛と大きな結晶が多数確認された。処理後の運動精子濃度は0.5×106/ml、運動率27.8%であった。またICSI実施後の受精率は80%(4/5)であり、その後Day3にて単一新鮮胚移植を行ったが妊娠には至らなかった。余剰胚は継続培養し得られた胚盤胞2つ(66.6%)はガラス化法にて凍結保存を行った。別のホルモン補充周期にて凍結融解胚移植を行い妊娠が成立した。その後経過良好により他院紹介となった。
症例②: 妻38歳、排卵障害の診断あり。また精子不動化抗体が陽性であった。夫46歳、既往歴はなし。当院でのART実施前の精液検査での所見が運動精子濃度22.68×106/ml、運動率51.6%、pH8.2であった。過去3回の採卵では結晶は観察されなかったが、貯卵の為再度採卵を行ったところ原精液中から結晶が確認された。形状は棒状または棒状の結晶が重なり菊花状になっているものが多数確認された。処理後の運動精子濃度は38.45×106/ml、運動率82.8%であった。また、ICSI実施後の受精率は75%(3/4)であり、受精卵はすべて前核期胚凍結を行った。以前の周期で得られた受精卵で凍結融解胚移植を行い、妊娠が成立し経過良好により他院紹介となった。
【結論】精液中で確認された結晶は棒状や菊花状の形状をしており、精液のpHがアルカリ性であることから今回の症例で見られた結晶はリン酸カルシウム結晶と推測した。少なくとも結晶が受精率には影響はなく、また妊娠経過も良好なことから精液中に結晶が確認されても治療へ大きな影響はないことが示唆された。今後症例数を増やし結晶の成分の同定、発生条件などについて調査を行う。