Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-18 甲状腺疾患が生殖医療の成績に及ぼす影響

学術集会 一般演題(口頭発表)

2023年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:岡本 泰之

岡本甲状腺クリニック

Abstract

甲状腺疾患は妊娠可能年齢の女性に頻度が高く、その年齢分布は生殖医療を受ける女性と重なる。甲状腺疾患による妊娠への負の影響は古くから知られている。2000年前後から、遊離T4(FT4)正常でTSH基準範囲超えすなわち潜在性甲状腺機能低下症(SCH)、あるいはTSH 2.5μU/mL以上から基準範囲上限までの高値正常の妊婦における妊娠転帰に関する報告が増加している。イタリアのNegroらは2010年、妊娠初期TSHが2.5から5.0μU/mLの妊婦は2.5μU/mL以下の妊婦と比較して流死産のリスクが有意に高く、さらに甲状腺ホルモン薬(LT4)投与は妊娠有害事象を減少させることを報告した。これらの報告を境に我が国でも軽度のTSH高値に対して積極的にLT4が投与されるようになった。現時点では、2021 European Thyroid Association Guideline on Thyroid Disorders prior to and during Assisted Reproduction が生殖医療に関する最新のガイドラインである。甲状腺疾患のスクリーニングとしてガイドラインでは、TSHとTPOAbの測定を推奨している。ヨウ素摂取量の多い日本では、甲状腺機能低下症の主な原因である橋本病の組織学的変化はTgAbの方が鋭敏に検出できる。我々の検討では、TSH高値不妊女性で自己抗体陽性者のうち、TgAb陽性かつTPOAb陽性が52%、TgAb単独陽性が44%、TPOAb単独陽性が4%であり、TgAbのみ測定すれば抗体陽性者の96%を検出できる。ただし、甲状腺自己抗体と不妊症や生殖医療の成績との関連を検討した報告の多くはTPOAbによる海外データである。甲状腺自己免疫(TAI)そのものの生殖医療の成績に関するメタ解析では採卵数、受精率、着床率、妊娠率に影響はないが、出生率がわずかに低下する。しかし、甲状腺機能正常でTAIを有する女性へのLT4による介入研究ではLT4投与は出生率を改善しなかった。免疫系に介入する治療成績は皆無である。生殖医療における卵巣刺激は血清E2の上昇とそれに続くT4結合グロブリンの上昇をもたらす。結合蛋白の増加はFT4を減少させ、ネガティブフィードバックによりTSHを上昇させる。このTSH上昇は、すでに甲状腺機能低下症のある女性、TAI陽性女性で現れやすい。甲状腺機能低下症と生殖医療の成績との関係では、TSHのカットオフ値を2.5μU/mLとした研究では、2.5μU/mL未満と2.5μU/mL以上では出生率や流産率には差がない。TSHが基準範囲を超えるSCH女性に対してLT4で介入した場合、出生率が向上した。以上から、TSHが基準範囲を超える女性、およびTSHが2.5μU/mLから基準範囲上限の間でかつTAI陽性女性に対しては卵巣刺激前からのLT4投与が推奨される。LT4を投与する場合、我々の成績では妊娠前TSHを1.6μU/mL以下に維持しておくと妊娠成立時に85%の女性がTSH 2.5μU/mL以下を保っており、1.0~1.5μU/mLをコントロール目標としている。初期投与量の目安は体重1kgあたり1μgとしている。以上、本講演ではガイドラインの根拠となっている代表的なエビデンスを紹介するとともに、われわれの診療成績について紹介する。

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