O-16 クラウド技術とマスキング技術を用いた臨床データの共有と匿名加工の方法-個人情報保護に重点をお いて-
2020年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:犬伏 美喜・江夏 徳寿・古橋 孝祐・中川 奈緒子・魏 興強・松本 由紀子・苔口 昭次・塩谷 雅英
英ウィメンズクリニック
Abstract
【目的】
昨今,多分野でAI (artificial intelligence; 人工知能)の開発及び導入が急速に進んでおり,生殖医療分野においてもその取り組みは加速している.AI 開発は膨大な情報を基にプログラム作成を行うため,豊富な臨床件数を持つ施設と解析技術を持った専門機関との連携が重要となる.当院では,ネクスジェン社とAIの共同開発を行っており,臨床データをクラウド上で共有しながらプログラムの開発を行っている.本検討における,個人情報保護と迅速な情報共有の両立手法を,法的側面と技術的側面から紹介したい.
【方法】
改正個人情報保護法によると,個人情報を加工して匿名加工情報にすれば,第三者へのデータ提供も可能とされている.そのため臨床データの様な要配慮個人情報が含まれている場合でも適切な匿名加工を行うことによりAI 開発業者に情報提供することが可能である.本研究では,臨床データを匿名加工した後,クラウド(Dropbox business)を用いてネクスジェン社と共有する方法をとった.本研究は当院及び社外倫理委員会の承認を得て始められた.
当院では電子カルテ(RACCO:システムロード社)とデータ管理システム(FileMaker Pro)を併用し診療を行っている.また,培養業務においてはタイムラプスシステム(iBIS:アステック社)を導入している.匿名化の方法として臨床で使用する患者番号とは別に,AI 開発用として暗号化識別コードを付与した.また,提供するデータであるART 関連情報,iBIS から抽出した培養動画に対する匿名加工法として,全ての情報において提供前にマスキング処理を行うこととした.一括マスキング処理(患者番号の変更,動画の個人情報表示場所のマスキング)を行うため,汎用プログラミング言語であるpython(パイソン)を使用した.まず,臨床上の患者番号とAI 開発用の暗号化識別コードをCSV ファイル内で紐づけし,対象フォルダにiBIS 動画を格納する.その後,コマンドプロンプトにて実行することにより,一括マスキング処理が可能となった.このマスキング作業をクリニック内で行うことにより,要配慮個人情報が匿名加工情報に変換されることとなり,匿名加工後のデータのみをクラウドに上げることによってネクスジェン社と迅速なデータの共有を行うことができる.クラウドは共同開発者のみがアクセスできるよう設定し,データをアップロードする際は,Zipファイルに変換及びパスワード保護処理を施し,個人情報の保護に細心の注意を払っている.
【結語】
要配慮個人情報であっても仮想IDを用いた匿名化とpythonを用いたマスキング処理によって匿名加工情報として共同研究者と共有可能である.また,クラウドを用いることにより,安全かつ効率的にデータの共有ができることが確認された.