O-10 タイムラプスによる雌雄前核の観測とPGT-A 解析結果の相関
2021年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:白水 亜也佳・平田 貴美子・泉 陽子・中塚 麻里子・清水 純代・林 綾乃・田口 美里・藤岡 美苑・栗原 甲妃・中西 桂子・後藤 栄
後藤レディースクリニック
Abstract
【目的】
近年タイムラプス観察による雌雄前核の大きさの違いが妊娠率,出
産率に影響があるという報告があり,非侵襲的な胚の評価法として期
待されている.このことから,本研究ではタイムラプスで観察した雌
雄前核のサイズと着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の解析結果
に関連があるのか後方視的に検討を行った.
【方法】
2020年8月〜2021年4月に,日本産科婦人科学会によるPGT-A特別臨床研究の対象となる症例のうち,タイムラプス動画で雌雄前核が測定可能かつPGT-Aを行った23周期67個の胚盤胞を対象とした.対象年齢は28 〜40歳とした.雌雄前核の面積の測定は,前核消失直前(以下PNMBD)とPNMBDの8時間前に行い,J.Otsukiらの先行研究において最も生産率との相関が高いとされた以下3つの条件を満たすかを判定した.
条件①:PNMBDの雌雄前核の面積の差が少ない(40μm2以下)
条件②:PNMBD8時間前では雄性前核が雌性前核より大きい
条件③:PNMBD8時間前の雌雄前核の面積の差が,PNMBD直前の面積の差よりも大きい
PGT-Aにて正倍数性・異数性・モザイクと判定された胚において
条件①〜③を満たす割合を比較検討した.
【結果】
正倍数性の中で条件①を満たす胚は69.0%(20/29),異数性で
50.0%(15/30),モザイクで50.0%(4/8)となり,全てにおいて有意差はなかった.
正倍数性の中で条件②を満たす胚は93.1%(27/29),異数性で
60.0%(18/30),モザイクで75.0%(6/8)となり,正倍数性と異数性間において有意差がみられた(P<0.05).
正倍数性の中で条件③を満たす胚は31.0%(9/29),異数性で
40.0%(12/30),モザイクで75.0%(6/8)となり,全てにおいて有意差はなかった.
正倍数性の中で条件①かつ②を満たす胚は65.5%(19/29),異数
性で23.3%(7/30),モザイクで25.0%(2/8)となり,条件②単体よりも正倍数性と異数性間において大きい有意差がみられた.(P<0.01).
【考察】
PGT-Aは胚の染色体異常を評価するために有効な方法であるが,
栄養外胚葉を一部採取するという侵襲的な部分も持ち合わせており,正倍数性の胚であったとしても胎盤の形成不全や着床不全を引き起こす可能性がある.今回,PGT-Aで正倍数性と判断された胚の中で,条件①「PNMBDの雌雄前核の面積の差が少ない(40μm2以下)」かつ条件②「PNMBD8時間前では雄性前核が雌性前核より大きい」を満たす胚において正倍数性である割合が有意に高かった.このことから,PGT-Aを行うことなくタイムラプスによって雌雄前核の大きさの差を観測することが胚評価の方法の一つとして有用であると示唆された.