Papers and Abstracts

論文・講演抄録

O-1 Refractile body出現メカニズム の解明 ―オートファジーとの関連―

学術集会 一般演題(口頭発表)

2022年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:青木 勇斗1)・田﨑 秀尚1)・2)・中塚 幹也3)・大月 純子1)・2)

1) 岡山大学大学院環境生命科学研究科生殖補助医療学教室
2) 岡山大学生殖補助医療技術教育研究センター
3) 岡山大学大学院保健学研究科

Abstract

【目的】
Refractile body(RB)はヒト卵母細胞質内で見られる主な異常形
態の一つであり,我々の以前の研究で,RBは顆粒状物質や脂質の
混合物であり,リポフスチンと類似していることが判明している.ま
た,直径5μ m以上のRBを有する卵母細胞はIVF受精率,胚盤胞
発生率,妊娠率が低く,同一患者に繰り返し確認される傾向がある
ことが報告されているが,詳細な発生原因は未だ不明である.よっ
て本研究では,臨床的に問題のある直径5μm 以上のRBを有する卵
母細胞と年齢の関係を調べると同時に,オートファジーとエンドサイトーシスの両観点からのRB 出現メカニズム解明を目的とした.
【方法】
2018年から2022年の間に岡山大学病院にて卵巣摘出手術を行っ
た性同一性障害の当事者のうち本研究におけるインフォームドコン
セントの得られた27名(平均年齢±SD;31.1±6.9)から摘出卵巣を
得た.卵巣から100個以上の原始卵胞を分離し,RB の大きさを記
録した.直径5μm 以上のRBを有する原始卵胞の割合を算出し,27名それぞれを比較した.Lysotracker Red DND-99を用いて原始卵胞のリソソームを染色し,リソソームの局在を調べるとともに,RBの蛍光輝度を解析した.さらに,原始卵胞をオートファジーのマーカーであるLC3と後期エンドソームのマーカーであるRAB7による蛍光免疫染色を行い,透過型電子顕微鏡観察(TEM)にて原始卵胞内卵母細胞の微細構造を調べた.
【成績】
分離された全ての原始卵胞に大小不同のRB が確認された.直径5μm 以上のRBを有する原始卵胞の割合は0.7%から73.6%(平均±SD; 23.1±18.3)と幅広く,年齢との関係性は認められなかった(p= 0.211).Lysotracker Red DND-99 による染色の結果,蛍光はRB のみに限局していた.無染色区と染色区でRB の蛍光輝度を比較した結果,有意な輝度差が認められた(p<0.001).TEMの結果,0.1 ~ 1μmのリソソームがRBに内在もしくは周辺に散在し,RBの前駆体様構造が確認され,細胞内の所々に隔離膜様構造が見られた.また蛍光免疫染色観察の結果,RBとLC3 は部分的な共局在があるのに対し,LAB7との関連はみられなかった.
【結論】
今回の結果から,RBは原始卵胞内で形成されていることが判明し,採卵時に繰り返し出現するRB は,原始卵胞の段階で既に形成されているためであることが明らかとなった.また,RB の出現は体細胞のリポフスチンと異なり,加齢による卵の老化に起因せず,患者特異的な卵巣環境あるいは卵内環境が関係することが示唆された。たLysotracker 染色,抗LC3抗体による蛍光免疫染色,TEMによる結果から,RB は原始卵胞内の不要なタンパク質のオートファジーによる分解産物,もしくは原始卵胞内卵母細胞の栄養飢餓に起因するオートファジー分解産物である可能性が考えられる.

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