Papers and Abstracts

論文・講演抄録

MTT アッセイを活用したヒト精液性状検査試験紙の開発

沖津 摂

2016年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会 Workshop

学会講師:沖津 摂

Abstract

ARTクリニックにおいて,精液性状検査は日常的に行われる検査の一つである.広大な土地面積を有する国においては精液検査のために医療機関を訪れるのに多大なる時間と労力を要することは少なくない.また日本のような比較的土地面積の小さい国においても,男性患者にとって婦人科医療機関への受診に対して精神的苦痛を感じる方のあることは容易に推察される.そこでこの度,演者らは自宅で簡便に精液性状検査を行うことのできる試験紙の開発に向け,MTTアッセイを活用したワックスプリント試験紙の有用性を検証したのでその成果について報告する.

本臨床試験は,岡山大学および三宅医院の両倫理委員会において実施が承認された上で行われた.精液検査,あるいはARTを目的として採取された120名の男性患者の精液の一部を,インフォームドコンセントを得た上で用いた.射出精液を室温あるいは37℃で液化後,位相差顕微鏡を用いて定法に従って精液性状検査を行った.それと同時に,精液の一部(5μl)をワックスプリント試験紙のtetrazolium salt 3-(4,5-dimethyl thiazol-2-yl)-2,5-diphenyl( MTT)浸潤部分の定位置に滴下し,その30分後に色調変化をデジタルカメラで撮影した.紫色変化の程度(脱水素酵素活性の強度を示す)をデジタル化(MOT値)し,その結果と定法による精液検査結果との相関について解析を行った.有意差検定はStudent’s t -testを用いて行った.

全提供精液を対象とした場合,運動精子濃度が1.0 x107/ml 以上のサンプル(n=93)とそれ以下のサンプル(n=27)における平均MOT値はそれぞれ7.5と6.1であった(p=0.055).しかしながら,比較的液化時間の長い室温液化精液(自宅採取検体)のみを対象として解析した結果,運動精子濃度が5.0 x 107/ml以上のサンプル(n=11)とそれ以下のサンプル(n=41)における平均MOT値はそれぞれ7.3と5.8であり,運動精子濃度高値群で有意に高かった(p<0.05).

今回の検討の結果,MTTアッセイを活用した試験紙を用いた検査結果と一般精液検査結果との間に相関が確認できた.今後はこの試験紙の実用化に向けて,液化条件(温度と時間)を固定した上でWHOの精液性状検査正常値との整合性を保ちつつ,より緻密なカットオフラインの決定を行っていきたい.

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