MRI による子宮評価をもとに行うART の個別化治
2022年度 年次大会-講演抄録|シンポジウム3「これからのIVF-ET に必要な個別化治療」
学会講師:徳永 義光
Abstract
今から80 年前1940 年代からヒトの体外受精研究は行われ,数々の失敗を経たのち1978 年にEdwardsとSteptoeによって世界初の体外受精児が誕生した.日本では1983 年に東北大学にて国内初の体外受精児の誕生が報告された.その後採卵方法が腹腔鏡下から経膣超音波ガイド下に変わり,HMGによる卵巣刺激の開発や,GnRH agonist・antagonist 製剤併用による調節卵巣刺激など目覚ましい進歩があった.顕微受精も幾多の変遷を経て,1992年にPalermoらによってICSIが開発された.これによりTESEで得られた精子でも受精が可能となり,無精子症患者にとって大きな福音をもたらした.1990 年に最初の報告が行われた着床前診断はその後次世代シーケンサーの登場により飛躍的に進歩し,PGTとしてARTの大きな補助技術となりつつある.ここまでのARTの進歩は配偶子・受精・胚発生という体内で起きていたブラックボックスを覗く
過程であったといえる.一方で胚が子宮内膜に着床する過程に関する研究は不育症研究をベースに行われ,自己抗体・凝固異常・免疫担当細胞の機能障害・子宮内フローラ異常などが臨床応用されている.最近では子宮内膜の菲薄化に対するPRP 療法が注目されている.
これまで主に実験動物から得られた知見をヒトに応用する形で生殖医学は発展してきた.ところがどの種もほぼ同じサイズの胚が着床する子宮は,種によってそのサイズ・形状は大きく異なる.胚と接する子宮内膜の外側には子宮筋層が存在し,多くの血管や神経が分布する.つまり胚は子宮という臓器に着床すると言える.これまで子宮は単なる器と考えられてきたが,MRI 特にcinema-mode MRIを用いた解析で,子宮には月経周期に伴って異なる収縮が起こっていることが分かってきた.卵胞期には子宮頚部から底部に向かう収縮,排卵期には子宮角部から子宮体部に向かう収縮と頚部から上昇する収縮,黄体期にはこれらの子宮収縮がほぼ完全に停止し,月経期には上行性・下行性に激しく収縮する.これらの子宮の動きは①精子の遡上を促し,②卵子や胚を子宮内に移送させ,③着床の場を提供し,④脱落膜化した内膜を次周期のため剥離させることに寄与する.つまり子宮は臓器として生殖過程の中心的な働きをしている.また臓器には正常と病態が存在する.子宮筋腫や子宮腺筋症をもつ症例では器質的障害だけでなく機能的障害もMRIにて診断でき,婦人科治療の適応が判断できる.
生殖医療保険化に伴いARTの標準化が進むと予想されるが,臓器としての子宮には婦人科的病態の存在や,筋層におけるホルモンや神経反応性の差異など個人差が認められる.MRIによる子宮の静的動的評価は
ARTにおける個別化治療に大きく寄与すると考える.