ICSIの操作過程が卵細胞質の辺縁局所の変形におよぼす影響
2018年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:岩山 広・石山 舞・下田 美怜・中谷 絢乃・山下 正紀
山下レディースクリニック
Abstract
背景と目的:ICSIでのピペット操作に伴う卵細胞質の変形は避けることのできないものである。一連の操作過程での紡錘体への影響を最小限に抑えるために第1極体(あるいは可視化された紡錘体)をピペットの軌道である卵子赤道面から最も遠位に、つまり6時あるいは12時方向に配置しICSIを実施することが定石となっている。しかし、紡錘体の位置する卵子辺縁局所の細胞質が、ICSI操作に伴って機械的にどのような影響を受けるのかは明らかでない。そこで、本研究では、ICSI操作に伴う卵細胞質の辺縁局所の空間的な変形を定量化し比較することを試みた。
対象と方法:通常のICSI症例における19個の卵子を対象とした。ICSIの操作過程は一般的な光学系をもつ倒立顕微鏡とデジタルカメラで動画撮影された。測定点は、穿刺の開始される3時方向を0度とし、30度(2時) から150度(10時) までの範囲で15度毎に卵細胞膜から10 μmの位置とした。モーション解析ソフトウェアを用いて測定点がトラッキングされ座標の変化が取得された。
例えば、30-60度の角度範囲においては、卵子円周に対する水平方向の伸縮は30度と60度との測定点の座標を結ぶ線分(L: Line) の長さで表された。また、垂直方向の伸縮は45度の測定点の座標からL への垂線(PL: Perpendicular line) の長さで表された。ピペット挿入開始時のL およびPLの長さを100として、それらに対する相対値の増減を伸縮度として定義した。
これらより算出された卵細胞質の局所的な伸縮度を各々の角度範囲(30-60度, 60-90度, 90-120度, 120-150度) の間で比較した。
結果:Lの伸縮度(中央値) において、角度範囲90-120度(6.1) が30-60度(20.8)、60-90度(11.0) および120-150度(10.1) に対して有意(p<0.05) に低値を示した。PLの伸縮度(中央値) において、角度範囲90-120度(55.0) が30-60度(144.4) より有意(p<0.01) に低く、60-90度(94.6) と120-150度(54.9) との中間の値であった。
考察と結論:本研究では、30-60度の卵子辺縁の細胞質の変形は明らかに大きく、60-90度に比べて90-120-150度のそれの変形はより小さくなる傾向が示された。ピペット進行時の漏斗形状の形成が細胞質の移動を促す様子も観察されており、“漏斗形成から遠位である”という要因がこの傾向に貢献しているのかもしれない。実際のICSIにおいては、11時あるいは10時方向へ傾けた第1極体(望ましくは可視化された紡錘体) の配置を検討しても良いのかもしれない。