ERA検査に基づいたpersonalized ET の有用性と可能性ー自験400症例の解析と文献的考察ー
2021年度 年次大会-講演抄録|シンポジウム「着床環境改善を考える」
学会講師:岩見 菜々子
Abstract
ERA(Endometrial Receptivity Analysis)は子宮内
膜において月経周期の各段階で発現する236 遺伝子
のトランスクリプトームをプロファイリングすることによ
り,長年にわたりブラックボックスといわれていたWOI
の実態を遺伝子レベルでとらえた画期的な検査である.
この技術を用いて個々の症例のWOI(Window of
implantation)に基づき,いわゆるpersonalized ET
(pET)の施行が可能となった.PGT-A 正常胚移植不
成功例における検討では約2 割の症例でWOIのずれ
に起因する着床不全があることが報告されている.
PGT-Aが日常臨床に浸透してきた現在,今後さらなる
妊娠率向上のためにはERA 検査に基づいたpETが必
須と考えられる.
当院では2019 年よりERAを導入,反復不成功例
に対して400 回以上実施してきており,現在では日常
診療において必要不可欠の重要な検査となっている.
今回,当院の成績を解析するとともに文献的考察を行
い,ARTにおけるERAの有用性と今後の可能性を検
討した.
対象は2019 年3月から2021年5月の間でERA 検
査結果に基づきpETを行ったRIF 症例400 例である.
同期間にERA 検査を勧めるも施行を希望されなかった
24例と検査直後第一回目HRC-FETにおける妊娠率
を比較すると,ERA(pET)施行群で有意に高い傾向
にあった(31.5% vs 20.8%).ERA 検査ではWOIの
ずれは44.8%の症例に認められた.このうちprereseptive(
WOI 遅延開窓)の方がpost-reseptive(WOI
早期開窓)よりも約3倍多かった(75.5% vs 25.5%).
また患者年齢が高いほどpre-reseptiveの割合が高くな
る傾向にあり,原因として子宮内膜のP4 に対する感受
性低下が推察された.以上より患者年齢に応じたET
プロトコールの変更が有効である可能性が示された.
またERA 検査結果により各施設でのETプロトコール
におけるP4 開始からみた最適なET 時間が算出できる
ものと推察された.WOIのずれがありET日を変更した
群ではWOIのずれがなくET日をしなかった群に比べて
妊娠成立までの平均ET回数が少ない傾向が認められ
た(1.42 回 vs 2.06 回).また両群ともほぼ同じ累積
妊娠率を示した(40 歳未満 62.8% vs 63.8%,40
歳以上 50.0% vs 47.3%).第一子をHRC-FETで妊
娠するも第二子希望でRIFを起こしている症例では
44.4%(16/36 例)に第一子妊娠時に比べWOIの変
化(主に遅延開窓)が認められ,pETにより高い妊娠
率が得られた.このような症例ではWOIの経年変化が
RIFの主因である可能性を念頭に置き,早い段階で
ERA 検査を行うことが重要であると考えられた.ERA
検査結果は初期胚移植でも有効でpETにて5 例の妊
娠例が認められた.またERA 検査を2 回以上行った8
症例の検討では結果の再現性が確認された.
最新の報告では,WOIの開窓は主に子宮内膜表層
上皮の急激な遺伝子変化により突然発生し,逆に閉窓
は連続した緩やかな変化となって終了することが明らか
となっている.今回経験した興味ある4症例の臨床経
過と共に紹介したい.