Assisted hatching法の違いが胚盤胞の接着能に及ぼす影響 の検討
2017年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:江副 賢二・上野 智・薮内 晶子・沖村 匡史・内山 一男・小林 保・加藤 恵一
加藤レディスクリニック
Abstract
【目的】
Assisted hatching(AH)はレーザー照射により透明帯を部分的に除去する手法が一般的であるが,透明帯の部分除去がAHとして適切であるか否かは明白ではない.
本実験では,胚盤胞の接着能を体外培養系で評価することを目的として,透明帯を部分除去または完全除去した胚盤胞のOutgrowth 現象について比較した.
また,胚盤胞の接着時にヘテロダイマーを形成しFibronectinと結合することが報告されているIntegrinα5及びβ1の mRNA発現を解析した.
【方法】
研究への使用に同意が得られた患者の廃棄凍結胚盤胞(n=217)を実験に供した.
胚盤胞は融解後,レーザー照射により透明帯の30-40%を部分的に除去し,一部は次いでピペッティング処理により透明帯を完全に除去した(P 群,n=79,C 群,n=79).
また融解後に処置を行わない胚盤胞を対照群とした(Intact 群,n=59).胚盤胞はFibronectin 処理を施したディッシュで96時間培養し,タイムラプスシステムにより胚盤胞の孵化率,接着率およびOutgrowth面積を評価した.
さらに,培養開始0,12,18,24時間後の胚盤胞よりRNAを抽出し,qRT-PCR によりIntegrin α5及びβ1のmRNAの発現を解析した.
【結果】
P群の孵化率は64%であり,Intact群(10%)と比較し有意に高率であった.
P,C およびIntact 群における胚盤胞のディッシュへの接着率は,それぞれ60%,80%および10%であり,C 群が有意に高かった.
またC 群の接着に要する時間はP 群およびIntact 群に比べて有意に短かった.
Outgrowth 面積は,P 群で2.1×105μm2,C 群で3.5×105μm2,Intact群で1.1×105μm2であり,C 群で有意に増加した.
さらに,C 群において,培養開始12時間後にIntegrin α5のmRNA発現量の増加が認められ,24時間後まで漸増がみられた.
一方,P 群およびIntact 群においてもIntegrin α5のmRNA発現量の増加がみられたが,その発現量はC 群と比較し有意に低かった.
またC群では培養開始24時間後までIntegrinβ1のmRNA 発現量の継続的な増加が認められたが,P 群およびIntact 群においては変化がみられなかった.
【考察】
透明帯の部分除去後においても孵化しない胚盤胞がみられ,透明帯の部分除去はAHの手法として不十分である可能性が示唆された.
一方で,透明帯の完全除去は胚盤胞におけるIntegrin α5及びβ1の発現を亢進し,Fibronectin 処理をしたディッシュへの接着を促進することが明らかとなった.
これより,胚盤胞へのAHの手法として透明帯の完全除去が有用である可能性が示唆された.