ART クリニックにおけるIT 化
2016年度 年次大会-講演抄録|日本臨床エンブリオロジスト学会 Workshop
学会講師:羽原 俊宏
Abstract
IT化のメリット
情報通信技術(Information and Communication Technology:ICT)は,情報処理特にコンピュータなどの情報技術(Information technology:IT)に通信を含めた総称であり,一元化入力され,さまざまに見やすい形式に加工されたデータは,必要なときに多くの人が同時に検索してアクセスし,閲覧や追加書込みすることができ,情報共有に極めて有用である.また,入力データは統計解析に用いることも可能で,エビデンスに基づいた医療,継続的な品質管理システム改善のためにも不可欠なものになっており,電子カルテ,データ管理システム,レセコン,予約システムといった患者個人情報を取り扱う診療システムへの応用が進められている.
IT化の必要性:患者への情報提供・
患者の要望把握・職員情報共有
挙児希望カップルが,自分たちで治療方針を選択できる治療環境が重要であるが,インターネットなどに情報は溢れていても,正しいとは限らず,施設ごとに見解が異なる場合も多いため,実際に治療を担当する医療機関からの情報提供が必要である.この情報発信は,一方的な情報提供に終始しないようにカップルへの質問・要望・意見を把握することが大切であり,双方向的に情報共有できるようシステム構築することが重要と考えられる.生殖医療情報は,常に追加更新されていることから,医療チームの職員は積極的に情報を把握する必要があり,医療チームの情報共有なくしてカップルへの医療提供は出来ない.このため先ず職員が最新の正しい情報を共有し,組織知識として蓄積し,情報を共有するためのシステムとコンテンツを準備して,情報共有を行う必要がある.
IT化におけるリスクとセキュリティポリシー:
個人情報・組織情報管理
IT化により情報を収集・分析・共有しやすい状況が出来る反面,医療に関する個人情報は,万全な情報セキュリティ体制のもとで管理する必要がある.脆弱性はクライアントとサーバ,どちらにおいても重要な問題であるが,特にインターネットに公開しているサーバの場合には,セキュリティホールを利用した不正アクセスによって,ホームページが改ざんされたり,ウイルスの発信源になってしまったりするなど,攻撃者に悪用されてしまう可能性があるため,脆弱性は必ず塞いでおかなければならない.また,多人数で情報を共有する場合,意図的ではなくても電子メールの送り先を間違えたり,記憶媒体の廃棄の方法を誤ったり,記憶媒体の持ち出しや紛失,といった過失が発生する可能性がある.実際には,組織における情報漏洩の原因のほとんどが,このようなヒューマンエラーやITに関するリテラシーの不足によるものとされている.このため,組織の情報セキュリティポリシーを明確にし,情報管理を確実に行うことが求められる.本講演では,生殖医療におけるIT化について当院における取り組みを紹介させていただきます.