ARTと周産期合併症に関する課題
2017年度 年次大会-講演抄録|Rising Sun Lecture
学会講師:杉山 隆
Abstract
生殖医療において生殖補助医療(assisted reproductive technology; ART)は必須であり,今や総出生児の5%を占めるに至っている.
晩産化の時代において,今後益々増加することは必至である.一方,ARTによる周産期合併症が存在することも事実である.
そのひとつとして多胎妊娠があげられる.多胎妊娠は母児の予後を不良にするとともに,早産や低出生体重児の出生により周産期医療に大きなインパクトを与える.
ただし,近年の単一胚移植の普及とともに,ARTによる多胎は急速に減少している.またART妊娠は,早産や妊娠高血圧症候群(PIH),癒着胎盤等と関連することが報告されている.
ARTは高齢と関連するが,その一方で高齢妊娠は,種々の周産期合併症と関連することが知られている.たとえば,高齢妊娠そのものが独立してPIH発症と関連するが,年齢を
マッチさせてもART妊娠において自然妊娠に比し,PIHの頻度が高くなることも報告されている.
ただし,ART妊娠と周産期合併症に関する臨床研究では,年齢のみならず人種,ARTの適応理由,ARTの定義,ARTの種類の差等,多くのバイアスや交絡因子が存在するので,わが国発のエビデンスの発信が重要である.
またARTによる妊娠成立のみならず,順調な妊娠経過および安全な分娩まで視野に入れた対応が,ますます重要になると考えられる.
さらにARTがエピジェネティクスを介し児の長期的予後に影響を与える可能性も示唆されている.ARTと周産期合併症に関し,内外の報告を紹介しながら,課題と方向性について概説したい.