Papers and Abstracts

論文・講演抄録

非侵襲的な胚評価方法からのモザイク胚アプローチ

木田 雄大

2023年度 年次大会-講演抄録日本臨床エンブリオロジスト学会:モザイク胚を考える

学会講師:木田 雄大

Abstract

「胚を傷つけずに、染色体の正常性を評価する方法はないものか。」生殖補助医療に携わる者として、そう思う人は多いのではないだろうか。胚の染色体正倍数性は妊娠・出産に至るための重要なポイントであり、異数性胚は高い確率で着床の失敗や初期流産に繋がり産子を得ることができない。そのため、正倍数性胚を選択的に移植できれば妊娠・出産への近道となると考えられ、この課題を解決する手法としてPGT-Aが用いられるようになった。しかし、現在の一般的なPGT-Aでは、胚の細胞を一部採取する必要があり、胚への侵襲性が懸念される。また、胚生検はその操作上あまり気の進む手技ではない。そのため、侵襲性の低い方法で胚の正倍数性や異数性を評価する方法の開発が求められる。
近年、ディープラーニング技術を用いた機械学習が開発されて以来、AIの進歩は目覚ましく、医療分野においても画像診断の支援ツールとして広く応用されるようになった。生殖補助医療分野では、タイムラプスインキュベーターの普及により胚発生画像を記録することが一般的なものとなってきており、以前は得られた胚画像から、発生過程におけるイベントのタイムポイントや発生様式のアノテーションを人の手で行うことで胚質を推察してきたが、ルーチンとして臨床に落とし込むには作業が煩雑で問題があった。しかし、AIにより胚画像から自動で胚質を数値化し評価することが可能となってきており、臨床応用は目前と思われる。Presagen社はLife Whisperer “Genetics”を開発しており、これは「Day5の胚盤胞画像1枚」から「正倍数性胚の可能性」をスコア化するAIである。そのため、普段の培養の過程で得られた画像をAIに解析させるだけで正倍数性の予測を行うことができ、タイムラプスインキュベーターが無い場合も、画質条件の合うカメラさえあれば、所定の培養時間の胚画像を撮ることで利用可能である。スコアは0.0~10.0までの間で表示され、生検のような侵襲的な操作やサンプリング操作を行う必要が一切無く、正倍数性胚の予測が可能となっており、PGT-Aの代替として期待される。しかし、PGT-Aから得られる結果には「正倍数性」「異数性」以外に「モザイク胚」が存在する。モザイク胚とは1つの胚の中で正倍数性と異数性の細胞が混在している状態であり、STARの報告では10.5%~26.4%の範囲で存在するとされている。モザイク胚は移植胚としての扱いが議論されているが、移植後の妊娠出産成功率が下がるものの、挙児を得られていることが報告されており、モザイクの箇所や程度によっては、十分なカウンセリングのもと、移植が許容されてきている。そのため、モザイク胚へのアプローチも必要になってくる。
本演題では、AIによる胚画像解析ついて当院の取り組みをご紹介し、モザイク胚への非侵襲的なアプローチの可能性についてお話ししたい。

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