若年乳がん患者の妊孕性温存を 目的とした卵巣刺激時AI併用プロ トコルの有用性の検討
2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:中嶋 真理子1)・西島 千絵2)・川越 雄太1)・高橋 由妃2)・吉岡 伸人2)・杉下 陽堂2)・高江 正道2)・洞下 由記2)・河村 和弘2)・鈴木 直2)
1) 聖マリアンナ医科大学病院 生殖医療センター 2) 聖マリアンナ医科大学 産婦人科学
Abstract
【目的】
当院では若年がん患者に対して,がん治療を最優先とする中でがん治療開始前に妊孕性温存を目的とした配偶子凍結や卵巣組織凍結を行っている.しかし,卵巣刺激による血中エストロゲン濃度の増加はLuminal型乳がんを増悪させるリスクが想定される.そこで,我々はAromatase inhibito(r AI)併用により血中エストロゲン濃度を増加させない卵巣刺激法で採卵を行っている(臨床試験承認番号:2873).本研究では乳がん患者の妊孕性温存を目的としたAI併用卵巣刺激プロトコルにおける,採卵率,受精率,胚発生率を比較し有用性を検討した.
【対象】
2014年から2016年6月までに当院にてIVFを行った患者を対象に,採卵率(採卵卵子数/ 穿刺卵胞数),受精率(2PN 胚数/成熟卵子数),培養2日目での胚発生率(分割率:分割期胚数/2PN 胚数)について,AI使用患者(AI 群,n=15)とそれ以外の患者(Control 群 ,n=219)で比較した.培養2日目での胚発生率はVeeck分類でGrade3以上を良好胚とし
て良好胚率(良好胚数/分割期胚数)を比較した.
【結果】
対象とした患者の平均年齢はAI 群38.1歳(31-43歳),Control 群38.1歳(31-42歳)であった.採卵決定時の血中エストロゲン濃度はAI 群297.8±60.3pg/ml,Control 群1639.0±57.2pg/mlとAI 群で有意に低値であった.患者あたりの採卵卵胞数はAI 群7.2±1.9個/患者,Control群9.7±0.6個/患者と両群で同程度であった.卵胞あたりの採卵率はAI群(71. 4%/ 患者),Contr ol 群(71. 7%/ 患者)と両群で差を認めなかった.また,卵子成熟率はAI 群(86. 1%/ 患者),Contr ol 群(80. 3%/ 患者)と有意な差は認められなかったが,受精率はAI 群(53.7%/患者),Control群(70.2%/患者)とAI 群で低値を示した.分割率および培養2日目における良好胚率はそれぞれ,AI 群(分割率:73.0%/患者,良好胚率:56.9%/患者),Control 群(分割率:83.0%,良好胚率:52.6%/患者)と同等であっ
た
【考察】
本研究の結果から,AI 群ではControl 群と比較して血中エストロゲン濃度が有意に低値に抑えられたが,採卵卵胞数や卵胞あたりの採卵率に差が認められなかったことから,AIは卵胞発育に影響を及ぼさないと考えられた.今後,症例を追加しさらなる検討を加えていく.