自発的先体反応誘起に着目した媒 精時における精子調整方法の検討
2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:下中 麻奈美1)・大川 莉歩1)・鈴木 望文1)・榎本 恵1)・石井 鈴奈1)・藤田 陽子1)・庄田 亜紀子1)・堀川 道晴1)・島田 昌之2)・根岸 広明1
1) ウィメンズ・クリニック大泉学園 2) 広島大学大学院 生物圏科学研究科
Abstract
【目的】
現在当院では,体外受精に用いる精子をIsolate-Swim up 法により回収し,媒精まで37 ℃, 6%CO2条件で血清添加培養液中にて2~3時間培養する.先体反応は本来,受精過程で誘起されるが,37℃の血清添加培養液中では,精子は自発的先体反応を起こすことが知られている.そのため,Swim up 後,媒精まで長時間を要する場合,媒精前に精子が自発的先体反応を起こし,受精能力が脆弱化している可能性がある.そこで本研究では,Isolate-Swim up 後の培養と先体反応との関係を調べ,媒精まで自発的先体反応を抑制するための調整方法について検討を行った.
【方法】
インフォームドコンセントを得て,2016年5月~7月までに当院で精液検査を行い,精液所見がWHO 基準値を満たした症例を対象とした.
精液を2層Isolate 法にて遠心分離し,回収したペレットを実験1,2に用いた.
実験1.ペレットを5%HSA 添加HFF99培養液中に沈め,Swim up法を実施した.回収した精子を37℃, 6%CO2条件下で3時間保管した.この3時間保管した精子を受精用培養液でさらに3時間培養する擬似的媒精条件下において,精子の運動性と先体損傷率(FITC-PNA 染色法により測定)を評価した.
実験2.ペレットをHSA 無添加HEPES-HFF99培養液で懸濁,室温下で3時間静置した.その後,実験1.と同様にSwim up 法を実施し,回収した精子を擬似的媒精環境下にて3時間培養した.
【結果】
実験1.Isolate-Swim up 法にて回収した精子は,運動率は100%,先体損傷率は14.2%であった.しかし,3時間37℃で保管した結果,運動性は低下し,先体損傷率は増加した.この精子を擬似的媒精環境で先体反応を誘起した精子はわずかであり,運動性も低下した.すなわち,3時間の保管で精子の受精能が低下したと考えられた.実験2.3時間保管後であっても,その後swim up 法により回収した精子は先体を保持し運動率も維持されていた.その後の3時間の擬似的媒精環境により,先体反応が誘起され,高い運動率も維持されていた.
【考察】
今回の検討から,Swim up 後に血清添加培養液中,37℃, 6%CO2条件下にて長時間培養することにより,自発的先体反応が誘起されるために,媒精環境での受精能が低下する可能性が示された.一方,Isolate法実施後に室温下で血清無添加培地中に精子を再懸濁しておくことで,充分な受精能を保持した状態で少なくとも3時間保管することができたことから, 精子調整から媒精までに時間を要する場合,Isolate 法実施後,室温にて血清無添加培養液中で精子を保存し,媒精直前にSwim up 法を実施することにより,運動率性および先体を維持した精子を媒精に用いることができると考えられた.