Papers and Abstracts

論文・講演抄録

胚移植後の妊娠分娩経過が不良 であった3症例

学術集会 一般演題(ポスターセッション)

2016年度 学術集会 一般演題(ポスターセッション)

発表者:矢吹 淳司・安藤 寿夫・高柳 武志・鈴木 範子・國島 温志・植草 良輔・松尾 聖子・甲木 聡・藤田 啓・岡田 真由美・河井 通泰

豊橋市民病院

Abstract

【緒言】

当院は総合周産期母子医療センターにも指定されている生殖補助医療実施医療機関である.したがって,自院のみならず他院で生殖補助医療(ART)により妊娠した症例の周産期管理を行っている.今回,胚移植後の周産期管理に難渋した3症例を提示する.

症例1,40歳 2経妊1経産.他院にて9回胚移植施行され9回目のTET施行後妊娠.子宮筋腫合併妊娠で当院紹介となった.来院時子宮頸部後壁に8cm大の漿膜下筋腫を認めた.18週頃より腹部緊満感が増強し,子宮収縮抑制剤を最大量まで使用したが改善しなかった.以前の受診記録から子宮底部筋腫であった事が判明し子宮筋腫のダグラス窩嵌頓を疑い,開腹子宮筋腫嵌頓整復術施行した.術後張りは徐々に落ち着いてきたが,22週6日破水後に分娩に至った.

症例2,40歳 2経妊1経産.身長160㎝ 45.8㎏ BMI 17.9とやせが強く体重増加を指示したが体重増加不良であった.採卵手術を施行し,3回目の胚移植で妊娠.11週0日,絨毛膜下血腫を認め,40㎏まで体重減少を認め妊娠悪阻で入院となった.BMIは15.6.その後体重は42㎏となり退院となった.23週0日,胎胞突出で救急搬送された.子宮口全開大,骨盤位であり超緊急帝王切開となった.術後も性器出血が多くDICとなり子宮全摘術を施行した.

症例3,29歳.初産 特発性大腸穿孔で開腹手術歴あり.近医でのIVFETにて妊娠成立.中期に部分前置胎盤と診断され別の病院にて分娩予定であった.31週2日,里帰り中に性器出血,前期破水を認め,患者希望で当院へ救急搬送され帝王切開となった.子宮周囲に高度の癒着を認め腸管など癒着をすべて剥離したが,その後の止血処置も非常に困難であった.

【考察】

症例1では筋腫が認知されていたが妊娠を優先し不妊治療を行った結果,22週で分娩となった.筋腫を優先して治療するかどうかの線引きは難しいが,治療によっては早産を防げた可能性のある症例であった.症例2では当院では肥満や極度のやせなどからの合併症を防ぐため,体重に関しても制限を設け,一定基準を満たさないと治療は開始しないこととなっ
ている.悪阻も合併し極度のやせが絨毛膜下血腫やその後の早産の原因になった可能性は否定できず,妊娠後の体重変動も考慮しさらに厳格な妊娠前の体重コントロールが重要と考えられた.症例3は当院未受診の状態での搬送であり,術前のリスク評価が不十分なまま手術となった.開腹所見で高度の癒着を認め治療に難渋した.前置胎盤と既往歴から非常にハイリスクな症例であり,過去の手術歴も症例によってはリスクとなるため,妊娠前のリスク評価は重要と考えられた.
不妊治療においては,ただ妊娠を目指すだけではなく,妊娠後の周産期リスクの評価を正しく行うよう積極的な取り組みが必要である.

loading