Papers and Abstracts

論文・講演抄録

胚盤胞における胚生検(biopsy) 方法の違いが受精卵に与える影響 についての検討

学術集会 一般演題(口頭発表)

2016年度 学術集会 一般演題(口頭発表)

発表者:松浦 まき・大月 純子・向井 美紗・後藤 優介・辻 優大・古橋 孝祐・岩﨑 利郎・苔口 昭次・塩谷 雅英

英ウィメンズクリニック

Abstract

【目的】

着床前スクリーニング(PGS)は染色体の数的異常の検出を目的に,海外では広く取り入れられており,①精液所見不良,②高齢妊娠,③着床不全,④反復流産,ならびに⑤卵巣予備能が低下している患者への適応が推奨されている (PGDIS conference 2016).一方,わが国では技術の安全性,有効性などについて検討を行う臨床研究の段階とされている.このように,PGSを一般的な不妊治療の手法として用いるためには,倫理的な議論とは別に,技術の安全性確立が不可欠である.特に胚生検 (biopsy) 技術は診断を左右する重要な技術といえる.現在,biopsyを行う上で主流となっている方法は,レーザーを用いた手法であるが,同時にレーザーによる周辺細胞への影響も懸念される.そこで本検討では,安全で簡便なbiopsy 法の技術確立を目的に,異なる2種のbiopsy 法について比較検討を行ったので報告する.

【方法】

研究使用に同意が得られた廃棄予定の凍結胚盤胞 (Day5, G3BB≦)を対象に,融解後に孵化が認められた15個の胚盤胞を検討に用いた.検討群として,従来通りの方法で胚盤胞の孵化部分をレーザーによりbiopsyを行ったレーザー群,ならびにレーザーを使用せずに孵化部分を物理的に切り取ったメカニカル群の2群を用いた.次いで,各群から得られたbiopsy後の細胞( 胚盤胞本体,およびbiopsyサンプル) に対し,細胞蛍光染色法を用いた死細胞の割合について比較検討を行った.なお,染色には細胞膜透過性を有するHoechst33342(青色;総細胞),ならびに細胞膜透過性を有さないpropodium iodide(赤色;死細胞)を用いた.

【結果】

Biopsy 後の胚盤胞本体の細胞数ならびにbiopsy サンプル数はレーザー群 (n=10) ならびにメカニカル群 (n=12) に差は認められなかった(72.5±15.6 vs 81.8±14.5,ならびに6.4±2.2 vs 2.5±1.4).同様に,biopsy 後の胚盤胞本体における死細胞の割合(6.9% vs 5.6%;p=0.68),ならびにbiopsy サンプルにおける死細胞の割合(50.0%vs42.1%;p=0.31)にそれぞれ差は認められなかった.

【考察】

本検討結果から,レーザー法とメカニカル法によるbiopsyにおいて,胚盤胞本体あるいはbiopsy サンプルに対する細胞損傷の割合に差はないことが示された.メカニカル法はレーザーを使用する必要がないため,レーザーを所持していない施設でも胚盤胞期におけるbiopsyが可能になるのではないかと考えられた.今後,より詳細な検討を重ね,安全で簡便な技術の確立を目指していきたい.

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