胚の融解過程でみられる所見と成績の検討
2018年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:沖泙 美羽子1)・鈴木 康夫1)・辻 敏徳1)・中野 明華1)・安田 晴香1)・西 修2)
1)鈴木レディスホスピタル
2)西ウイミンズクリニック
Abstract
目的:当院では胚の凍結はガラス化法で行い、凍結液及び融解液は北里コーポレーションのVT507・VT508を使用している。融解は企業推奨のプロトコル、①液(融解液:TS)37℃1分間、②液(希釈液:DS)3分間、③液(洗浄液1:WS1)5分間、④液(洗浄液2:WS2)1分間の手順で行っている。融解過程において多くの胚は、①液投入後TOPから速やかに剥離し、②液終了時点ではディッシュの底に沈み収縮した状態である。しかし稀にTOPからの剥離が困難であったり、②液終了時点で浮上している胚や、胞胚腔が拡張し凍結前の状態まで回復している胚がある。また④液終了時点でも胚によって回復度合いは異なる。そこで今回、融解過程において観察される4つの所見に着目し移植成績との関連について検討した。
対象・方法:当院において2017年8月から2018年3月までに単一凍結胚盤胞移植を行った症例の内、検討可能であった153周期を対象とした。融解過程でみられる4つの所見を、所見1;①液におけるTOPからの剥離(容易群vs.困難群)、所見2;②液終了時点での回復の有無(有群vs.無群)、所見3;②液終了時点での浮上の有無(有群vs.無群)、所見4;④液終了時点での回復の有無(有群vs.無群)とし、それぞれ妊娠率、流産率、生産率を比較した。また②液終了時点での回復有群と他3所見を組み合わせ、それぞれ妊娠率、流産率、生産率を比較した。
結果:移植時の平均年齢は34.3±4.3歳であった。各所見のそれぞれの頻度は、所見1;困難9.2%vs.容易90.8%、所見2;有22.9%vs.無77.1%、所見3;有17.0%vs.無83.0%、所見4;有49.0%vs.無51.0%であった。各所見におけるそれぞれの生産率は、所見1;困難35.7%vs.容易41.4%、所見2;有58.3%vs.無35.6%、所見3;有33.3%vs.無42.5%、所見4;有46.7%vs.無35.4%であり、②液終了時点で回復していた胚で生産率が有意に高かった。そこで②液での回復有と、他3所見を組み合わせたところ、該当する周期が存在したのは5通りであった。それぞれの生産率は、剥離容易+②液浮上無+④液回復無:75.0%、困難+浮無+④有:75.0%、容易+浮無+④有:63.6%、容易+浮有+④有:40.0%、困難+浮有+④有:0.0%であり、②液浮上無を含む組み合わせで有意に高い生産率が得られた。
結論:本検討により、融解過程において②液終了時点で完全に回復した胚では、回復しなかった胚に比べ有意に高い生産率が得られた。また②液終了時点で完全に回復し、さらに浮上しなかった胚で有意に高い生産率が得られ、これらの所見は移植予後に関連している可能性が考えられる。今後、②液で完全に回復し、かつ浮上しない胚の条件について検討する予定である。