網羅的手法による着床前診断の現状と問題点
2018年度 年次大会-講演抄録|Symposium
学会講師:倉橋 浩樹
Abstract
わが国の着床前診断は、胚盤胞生検による複数細胞の採取と網羅的ゲノム解析との組み合わせが承認され、劇的に成績が改善しつつある。染色体転座に起因する習慣流産のカップルに対しては、TE生検と、全ゲノム増幅、次世代シーケンスによる全染色体のコピー数解析という組み合わせにより、不均衡転座のみならず、減数分裂に起因する加齢依存性の染色体異数体も回避することができる。一方、検査としての精度が高いレベルになるにつれ、受精後の体細胞分裂に起因する異数体のモザイクが検出される頻度が高いことがわかってきた。ある程度の異常細胞は発生初期に淘汰されるので正常化する可能性が高いが、現実として異数体のモザイクを呈する先天異常児も存在するので、このようなモザイク受精卵を移植するのか否かは悩ましい。メンデル遺伝病の着床前診断に関しては、少数細胞からの全ゲノム増幅後の解析では、アリル脱落による誤判定の懸念があるため、必ず、責任変異自体を直接に同定する直接法と、周囲の多型を利用して責任染色体のハプロタイプを決定する間接法とを併用する。この間接法に全ゲノムSNPハプロタイピングを利用することで、前述のような染色体異数体も同時に検出することが可能であり、この方法により理論上はさらに成績が向上する可能性を秘めている。次の段階として胞胚腔液や培地を用いた非侵襲的方法の開発研究も進んでいる。一方で、着床前診断に用いる網羅的ゲノム解析方法では、全ゲノムの配列情報が得られるわけではないにもかかわらず、科学者のあいだですら、偶発的所見やデザイナー・ベイビーといった問題に関する誤解が根強く残っている。ゲノム編集技術との関連も今後の議論すべき点が残っている。わたしたちは、全国規模の共同研究組織JAPCO(Japan PGD Consortium)を立ち上げ、よりよき着床前診断をわが国の生殖医療の現場に供給するべく、日夜その臨床研究に取り組んでいる。