Papers and Abstracts

論文・講演抄録

細胞遺伝学から見たPGS

笠島 道子

2017年度 年次大会-講演抄録Symposium –PGS を考える–

学会講師:笠島 道子

Abstract

ヒトの受精卵は着床する前に40%消失し,着床後に34%が化学的流産に終わる.
さらに,臨床的妊娠が認められた後の流産3%を合わせると,受精した胚の77%は消失してしまう1).
流産の原因検索とした細胞遺伝学的研究は半世紀も前から実施され,今では,流産の60-70%は胎児の染色体異常に起因することが周知されてきている.

一方,着床前スクリーニング(PGS)は,発生過程の初期である胚盤胞を調べるため,従来の細胞遺伝学的検査では経験することのない,想像の域であるような染色体異常に出会うこともあり得る.
PGSの結果によっては,解釈や移植に戸惑い,移植後の流産や出生児の状態など,予測できないことへの不安を抱きかねない.

本講演では,細胞遺伝学的な見地から例をあげてPGSの結果を推測してみたい.

PGSの対象者は必ずしも夫婦の染色体検査を実施しているとは限らず,PGSを実施したことで偶然にも構造異常が見つかる可能性もある.
複数胚に共通して同じ染色体に部分的重複や部分的欠失が認められる場合は相互転座が疑われ,ひとつの染色体に限り認められる場合は染色体逆位も考えられる.
数的異常としても高頻度にみられる13,14,15,21,22番は,複数胚に共通している場合などロバートソン転座に由来する過剰や欠失も考えられ,低頻度ではあるが片親性ダイソミー(UPD)の可能性についても考慮する必要がある.
さらに,一般集団より不妊群に多く認められる過剰マーカー染色体がある.
遺伝情報を含む領域由来のマーカー染色体では,微細な部分的重複として検出される可能性があり,複数胚に共通する場合には親由来か確認する必要がある.
PGSの結果を判断する場合には,常に過去の結果と合わせて考えることが必要になると思われる.

最近,正倍数性(euploid)と異数性(aneuploid)が混在するモザイク胚の扱いが問題となっている.
これまでモザイク胚は廃棄されていたが,モザイク胚の41%は妊娠継続するという報告もあり2),基本的には廃棄せず凍結保存や優先順位をつけて移植される傾向にある.
しかし,胎盤に限局するモザイク(CPM)でも2,7,16,22番が関与する妊娠では,子宮内発育不全や胎児死亡につながる妊娠合併症のリスクが高まり,7,14,15番では片親性ダイソミーとなるリスクもあることなど,PGDIS 3)ではモザイク胚の取り扱いに関するガイドラインを公表している.
PGSの結果は判断に苦慮することもあり得るため,PGSを受ける前の情報提供のあり方について,十分に検討する必要があると考える.

参考文献

  • 1) Edmonds DK, Lindsay KS, Miller JF et al.: Early embryonic mortality in women.Fertil Stelil, 38: 447-453, 1982.
  • 2) Munne S, Blazek J, Large M et al.: Detailed investigation into the cytogenetic constitution and pregnancy outcome of replacing mosaic blastocysts detected with the use of highresolution next-generation sequencing. Fertil Steril, 108: 62-71, 2017.
  • 3) Preimplantation Genetic Diagnosis International Society.PGDIS position statement on chromosome mosaicism and preimplantation aneuploidy testing at the blastocyst stage.PGDIS Newsletter, July 19, 2016 .
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