細胞膜が低伸展性だった卵の発育能は低い
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:花谷 美香・高橋 浩美・井上 聖子・田口 可奈・川原 結貴・新藤 知里・川上 典子・平田 麗・小坂 由紀子・羽原 俊宏・林 伸旨
岡山二人クリニック
Abstract
【目的】
ICSI実施時に, 細胞膜にピペットを挿入すると同時に破膜が起こる 低伸展性の卵子はその後の変性率が高いことが知られている.しかし 胚発育に関しての報告は多くない.また, 低伸展卵が多い周期が見ら れるが, 同時に採卵された膜正常卵の胚発育についての詳細は不明で ある.そこで今回は, 卵細胞膜の伸展性による胚発育, および低伸展 卵と同時に採卵された膜正常卵の培養成績を検討した.
【方法】
2014年6月から2017年6月までに当院で GnRH agonist 法または GnRH antagonist法による調節卵巣刺激を行った症例のうち, 採卵回数3回以下,ICSI実施数が 5個以上の771症例903周期を対象とした. ICSI実施時にピペットを細胞質に挿入したと同時に破膜が見られた卵子を不良群,卵細胞質にピペットを挿入し,押し進めている時に破膜が おきた卵子を中間群,十分な伸展の後, 吸引をかけることにより破膜 がおきた卵子を正常群とし,それぞれの培養成績および妊娠率について比較した.また,不良卵を含まない周期の膜正常卵をA 群, 不良卵 を含むが 30% 未満であった周期の膜正常卵をB 群, 不良卵が 30% 以 上であった周期の膜正常卵を C 群とし, それぞれの培養成績および妊 娠率について比較した.
【結果】
不良群, 中間群, 正常 群のそれぞれの 2PN 率は 42.2%, 68.8%, 81.4%,変性率は46.2%, 14.9%, 2.8%だった.不良群の2PN率は他群 と比較して低率であり(P<0.05), 変性率は高率だった(P<0.05). Day5胚盤胞到達率は 44.9%, 51.6%, 56.7%, 良好胚盤胞到達率は15.7%, 21.7%, 25.4%であり, 不良群のDay5胚盤胞到達率および良好 胚盤胞到達率は正常群と比較して低率だった(P<0.05).また単一融 解胚盤胞移植での妊娠率(妊娠継続中含む)および流産率に各群間の 差 は みられ な か った.A 群,B 群,C 群 の そ れ ぞ れ の 2PN 率 は81.9%, 81.2%, 68.9%,良好分割率は 70.3%, 69.0%, 58.1%であり,C 群の2PN 率は他群と比較して,良好分割率は A 群と比較して低率だっ た(P<0.05).Day5胚盤胞到達率, 良好胚盤胞到達率, 単一融解胚 盤胞移植での妊娠率(妊娠継続中含む)および流産率に差はみられな かった.累積生産率は 59.5%, 61.2%, 32.3%でありC 群は他群と比較 して低率だった(P<0.05).
【結論】
細胞膜が低伸展性だった卵子は正常卵と比較し, 受精率だけでなく 胚盤胞到達率も低かったが, 融解胚盤胞移植後の妊娠率は正常卵と 同等であった.また低伸展卵が多かった周期の累積生産率は低く, 同 一採卵周期の膜正常卵の受精率も低かった.細胞膜の伸展性は胚発育 と関連していることが示唆された.