精巣内精子と射出精子を用いた ICSI の臨床成績の比較
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:川辺 美里・野々口 耕介・人見 裕子・小川 優紀・藤川 恵理・久保田 健・山口 剛史・田村 出・渡邉 由美子・石川 弘伸・渡邉 浩彦
醍醐渡辺クリニック
Abstract
【目的】
ICSIには正常形態の精子を選別することが重要であるが,症例によって は運動精子が少なく,また形態不良精子が多いとICSIでの精子選別に苦 慮することがある.精巣内精子は射出精子と比べるとDNA損傷や酸化スト レスなど少ないが運動精子も少ないので不動精子の中から生存精子を探さ なくてはならない.このように射出精子,精巣内精子には長所もあるが欠 点もあり特に精巣内精子回収法は侵襲性が強いことが挙げられる.しかし 当院では無精子症以外でも精液所見が不良で射出精子でのICSIで結果が 出ない場合に精巣内精子回収法(TESE)も視野に入れている.そこで当院 において同一患者で射出精子,TESE精子を用いたICSIの臨床成績につ いて検討することにした.
【方法】
2014年7月から2019年6月までの 5年間で TESEと射出精子による ICSIを受けた10症例についてTESE 群と射出精子群の授精率, 胚盤胞到達率,臨床妊娠率,流産率を比較して検討することにした.
【結果】
10症例で患者年齢は 29歳から45歳.総周期数は 31周期で TESE 群 16周期,射出精子群17周期であった(同一周期で TESE, 射出精子両方 使用した症例が2周期あり).TESE 群では全ての症例で運動精子は確認できずペントキシフェリンで運動性を示した精子を用い射出精子群で は運動精子が確認できたので出来るだけ形態良好な精子を用いてICSI を行った.授 精率, 胚 盤 胞 到 達 率は TESE 群で 64.6 %(64/99),32.8%(21/64)であったのに対し射出精子群は75.0%(81/108),74.1% (60/81)であった.臨床妊娠率と流産率は TESE 群で 75.0%(6/8),33.3%(2/6)であり射出精子群では43.8%(7/16),42.9%(3/7)であっ た.最終的に生児を獲得したのは TESE 群4症例,射出精子群3症例で あった.
【考察】
授精率, 胚盤胞到達率は射出精子群が高かったが臨床妊娠率は TESE 群の方が高く,流産率は TESE 群が低い結果になった.このことは TESE 群では精子の障害が少なかったということと逆に射出精子群 と比べて精子探索に時間がかかっていることが関係しているかもしれな い.TESE 群と射出精子群との比較で優劣はつけがたいがTESE 群は 射出精子でのICSIを 2周期程行い着床しないか流産に終わったため TESEに切り替えて成功している.このように射出精子や TESEにこだわらず数周期行っても結果が出ない場合,精子回収法を変更してみるこ とも必要と考えられた.しかし今回生児を獲得した症例は 37歳以下で あったことから母体年齢も考慮して治療を進めることも重要である.