第一卵割異常由来の胚盤胞では第 一有糸分裂に要する時間が長くなる
2017年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:宮本 麻梨恵1)・中野 達也1)・佐藤 学1)・橋本 周1)・中岡 義晴1)・森本義晴2)
1) IVF なんばクリニック
2) HORAC グランフロント大阪クリニック
Abstract
【目的】
我々はタイムラプスを用いた動的解析により,異常卵割胚は正常卵割胚に比べて発育速度が遅延し,胚盤胞到達率および臨床妊娠率が著しく低下するが,胚盤胞形成胚の着床率は正常卵割胚と変わらないことを報告した.
しかし,異常卵割由来の胚盤胞は正常卵割胚に比べ,染色体異常率が高いことが報告されている.
そこで,染色体分配の異常の影響がより大きいと考えられる第一有糸分裂に着目し,胚盤胞まで発育した正常卵割胚と異常卵割胚の前核消失から第一卵割終了までの各時間を比較し,第一卵割の異常が発育速度に及ぼす影響を検討した.
【対象と方法】
2014年2月から2015年12月にcIVFまたはICSIを施行した後,Primo Visionを用いて5日間培養し,胚盤胞形成を認めた107周期を対象とした.
胚盤胞形成胚445個を,第一卵割において2細胞かつ第二卵割で4細胞を認めた正常卵割胚( cIVF:153個,ICSI:195個)と,第一卵割で3細胞以上を認めた異常卵割胚( cIVF:47個,ICSI:50個)に分け,授精方法別に授精操作後から前核消失(tPNf)/ 第一卵割開始(t2s)/ 第一卵割終了(t2e)の時間及び,tPNf-t2s/t2s-t2eの所要時間を後方視的に解析した.
【結果】
正常および異常卵割胚を比較すると,cIVFでは胚盤胞到達率(77.7%vs. 35.9%),良好胚盤胞率(35.5% vs. 6.1%)となり,ICSIでは胚盤胞到達率(62.3% vs. 21.1%),良好胚盤胞率(25.9% vs. 2.5%)となり,ともに異常卵割胚で低率であった.
また,各所要時間を比較すると,cIVFではtPN(f 正常卵割胚:23.8h vs. 異常卵割胚:24.5h), t2(s 25.4h vs.26.4h),tPNf-t2(s 1.7h vs. 1.9h), t2(e 28.5h vs. 31.8h),t2s-t2(e 3.1hvs. 5.4h)で差が認められた.
一方,ICSIではtPN(f 22.6h vs. 22.9h),t2(s 24.3h vs. 24.6h), tPNf-t2(s 1.7h vs. 1.7h)で差がなく,t2(e 27.6hvs. 30.5h)とt2s-t2e(3.3h vs. 5.9h)でのみ差が認められた.
【考察】
採精方法の違いに関わらず,異常卵割胚では第一卵割所要時間(t2st2e)が最も延長した.
胚盤胞形成を認めた異常卵割胚であっても,第一有糸分裂で何らかの障害を及ぼしていることが示唆された.
このことから,異常卵割胚由来の染色体異常率の増加は,第一卵割時の染色体分配や紡錘体のチェックポイントの異常が一要因ではないかと考えられた.
よって,異常卵割由来の胚盤胞を移植するしかない場合は,十分な説明の上で行う必要がある.