異所性脂肪とミトコンドリア機能
2021年度 年次大会-講演抄録|精巣・卵巣環境を考える
学会講師:島田 昌之
Abstract
卵巣においては,出生時に多くの卵母細胞が死滅し,そして月経発来後は毎周期に排卵される,あるいは卵胞発育過程で退行することで,卵が枯渇するため,機能消失すると考えられている.しかし,閉経後の卵巣においても数は少ないが卵母細胞は存在することから,卵巣機能が低下したため,卵胞発達が停止したと考えることもできる.また,精巣においては,精子幹細胞が存在し,無限に造精できるはずであるが,加齢に伴い男性ホルモン(テストステロン)濃度が低下する加齢性腺機能低下症(LOH)となる.さらに,加齢だけでなく,肥満や糖尿病,感染症などの要因も生殖器官の機能低下を引き起こすことから,精巣と卵巣は全身の状態に大きく影響を受け,精子と卵は精巣・卵巣の環境に支配されているのではないかと考えた。
上記の生殖腺の機能低下を引き起こす要因に共通するのは,炎症である.そこで,私達は,肥満モデルマウスや早期加齢化モデルマウス,細菌やウイルスを疑似的に感染させたモデルマウスを用いて,卵巣や精巣機能が低下していく共通メカニズムを解明することを試みている.現在までに明らかとなったことは,卵巣において,排卵後に当該周期のコフォートで発育停止した退行卵胞周囲にM1およびM2マクロファージが同時に誘引される.その退行卵胞周囲には,リンパ管が伸長し,ヘルパーT 細胞が局在し,これが退行卵胞の消去に関わっていると考えられる.しかし,加齢だけでなく肥満モデルマウスでは,排卵後特異的でなく,卵巣間質に常在的にM2マクロファージが存在し,間質の線維化を引き起こしていた.一方,精巣では,若齢個体では,白膜にわずかにリンパ管は形成されているが,精巣小葉内にはリンパ管は認められず,ヘルパーT 細胞も観察されない.加齢に伴って白膜が肥厚化し,分厚い白膜内にはリンパ管が発達していた.その時,精巣小葉内では,ライディッヒ細胞の脂肪細胞化による炎症性サイトカイン発現・分泌が生じていたことから,これらが原因となり白膜で炎症が引き起こされていると考えられる.しかし,白膜と小葉とは明確に区分されているため,リンパ管の精巣小葉内への浸潤は認められないため,精巣小葉内は脂肪細胞化するが,線維化はしないという特殊な環境を形成していた.その区分を精巣表面の切開(精巣内精子回収術)により破綻した時,わずか数か所の
切開であっても,そこからリンパ管が浸潤し,精巣全体を線維化させ,精巣間質機能が消失する結果,精細管内は精細胞が認められなくなり,死滅したセルトリ細胞のみが観察されるセルトリオンリーの症状を呈した.感染に起因する炎症の影響は現在検討中であるが,いずれにしても炎症が精巣と卵巣の環境破綻を引き起こし,生殖細胞の消失を引き起こすと考えられる.これまで私達は,加齢では酸化ストレス,肥満では異所性脂肪が放出する炎症性サイトカインが,炎症原因であることを示してきたことから,現在,酸化ストレスの低減や脂肪燃焼を促すことで,精巣と卵巣の環境改善が促されるかについて研究を行っている