生殖障碍者である子宮欠損症例への代理出産について
2021年度 年次大会-講演抄録|MRKH 症候群の妊孕性を考える
学会講師:根津八紘
Abstract
日本におけるIVF・ETの黎明期とも言える今から35,36 年前から,私は少なからずIVF・ETに関わりを持って来たが,実際に当施設でスタートしたのは今から25 年前のことである.その間に,不妊症治療における問題点を感じ,その後構築することとなった考え方は,夫婦間だけでは絶対に妊娠することが不可能な場合と,努力すれば可能な場合とを完全に分けて対応すべきことであった.前者には配偶子の無い無精子症と卵巣不全,そして子宮欠損症が先天性・後天性の形で存在,そのような夫婦を生殖障碍者(害を与える訳ではないので碍の字を使う)とし,それ以外の後者を純然たる不妊症(本来は難妊症)と見做して考えることによって,私の抱いていた問題がはっきりすることとなった.そして前者の生殖障碍者が子どもを望むならば,他者がボランティア(無償の奉仕者)となって関わる相互扶助精神の下で,無精子症には提供精子を,卵巣不全には提供卵子を提供(精子や卵子の養子縁組)して妊娠・出産する,また子宮欠損症に対してはボランティアが代理母となって代理出産することで,いずれも望むところの子どもを手にすることができる扶助生殖医療は,人間愛の下に成り立つ基本原理であると,私は確信することとなった.
以上のような信念と,「『医師』とは“自らは博愛心,生命力(体力,精神力)を兼ね備え,時としては己をも顧みずして傷病に立ち向かう医療の専門家”である.医師は与えられた職務に対するこの基本精神を忘れてはならない.『医師の裁量』とは“医師が最善の技量の下に,目の前の患者のためにより良い医療を,責任を持って全うする義務と権利”である.医師に与えられたその重責を忘れてはならない」という精神の下で,私はその後の生殖医療に関わることとなったのである.
MRKH(Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser)症候群は,生殖障碍者の中の先天性子宮欠乏症である.私がMRKH 症候群の患者と最初に遭遇したのは今から26 年前のことである.それは,IVF・ET 施設が完成する1年前のことで,その後,姉妹・義姉妹間で10 例,母娘間で11例の代理出産を施行したが,それ等21例中,9 例がMRKH 症候群の患者であった.しかしその後,国の方針が出るまでと2011年1月以来代理出産は休止状態下にあるが,このまま放置しておくことは,最早不可能である.以上,諸々について述べ
ることとする.