生殖細胞誘導システムを構築するための動物細胞を用いた前衛的研究
2019年度 年次大会-講演抄録|生殖再生医療の進歩と今後の発展
学会講師:林 克彦
Abstract
体外培養下で ES 細胞や iPS 細胞から精子や卵子を 作り出すことができれば, 配偶子形成メカニズムの 解明や, 個体の作製に貢献する.我々はこれまでに マウスの ES/iPS 細胞から機能的な卵子を分化誘導す る体外培養法を開発した.この培養系では ES/iPS 細 胞を始原生殖細胞(生殖細胞系列の起源)に一旦分化 させたのちに, 胎仔卵巣の体細胞と再凝集して疑似 卵巣を作製する.これらの疑似卵巣を培養膜上に保 持することにより,ES/iPS 細胞由来の始原生殖細胞 は卵母細胞へ分化し, 最終的には第二極体を放出し た成熟卵子へと分化する.これらの卵子のいくつか は, 野生型の精子と受精したのちに, 個体にまで発 生する.一方で,ES/iPS 細胞から分化させた始原生 殖細胞は胎仔精巣と再凝集すると精原細胞となるこ とが知られている.それらの精原細胞は成体の精巣 への移植により,受精可能な精子に分化する.
これまで述べたように,ES/iPS 細胞から誘導され る配偶子をヒトにおいて利用することは近い将来の ように思われるが, 実際には倫理的な課題はもとよ り, 技術的な課題が多く存在する.技術的な課題は 二つに大別され, ひとつは種間(マウスとヒト)の違 いをどう埋めるかという課題, もうひとつは配偶子 分化培養システムそのものの問題をどう解決するか という課題である.後者について具体的な問題点を 挙げると,胎仔卵巣・精巣を必要としていること,培 養下における配偶子の分化過程が生体内のものと異 なること, 発生率が極めて低いこと, などが挙げら れる.これらはまず動物実験をもって解決すべき課 題であり,我々はこれらの課題に取り組んでいる.
本会では卵母細胞系列の体外再構築の紹介や, そ れらをより確立されたシステムにする試み, 培養系 を用いた卵母細胞分化メカニズムの解明について最 近の知見をもとに紹介したい.