Papers and Abstracts

論文・講演抄録

生殖医療の立場から – 治療成績向上のためのstrategy-

加藤 恵一

2016年度 年次大会-講演抄録Current topics「ARTにおける甲状腺機能評価の重要性-ARTの治療成績向上につながるか-」

学会講師:加藤 恵一

Abstract

甲状腺機能と妊娠については古くから報告されており,機能異常症において不妊の割合や流産率が高いことが知られている.また妊娠初期に甲状腺機能低下を伴うと将来的な児の発達障害を認めることも報告されており,妊娠前からの甲状腺機能評価と早期からの治療が重要であると考えられる.近年特に潜在性甲状腺機能低下症と不妊の関係が注目されており,甲状腺ホルモンが正常であっても積極的にホルモン剤を投与し,コントロールすることが推奨されている.

当院でも2014年8月からTSH,fT4,抗サイログロブリン抗体(TgAb)の三項目を対象に甲状腺スクリーニングを開始したが,TSHのカットオフ値は米国甲状腺学会のガイドラインに準じ2.5μg/mL とし,スクリーニング陽性患者は専門医へ紹介の上,甲状腺ホルモン療法等を行った.スクリーニング検査においてTSHの異常は22.3%に認め,スクリーニング陽性率は34.5%であった.次に2014年8月初診で,スクリーニングを実施した患者348名(A群)と,2013年8月初診で,スクリーニング未実施の患者455名(B群)を対象とし,ART治療開始後3か月間の成績を比較検討したところ,胚移植後の臨床妊娠率,心拍確認率,9週までの妊娠継続率,流産率はそれぞれ28.5 % / 22.6 %,26.3 % / 19.9 %,23.0 % / 18.1 %,19.5% / 19.7%であり,両群間に有意差は認めなかったが,
臨床妊娠率,心拍確認率,妊娠継続率はA群に高い傾向が認められ,甲状腺スクリーニングおよびその後の治療が有益である可能性が示唆された.

今回の発表では当院におけるARTを中心とした不妊治療の中での,甲状腺スクリーニングの位置づけと流れについて概説させていただくとともに,不妊治療を進めるうえでの注意点および問題点について考察する.また,甲状腺と不妊治療に関するトピックスも紹介させていただく.

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