生殖医療に携わる者が知っておくべき出生前診断と その効率的利用法
2020年度 年次大会-講演抄録|包括的な着床前診断・出生前診断の今後の展開
学会講師:夫 律子
Abstract
産科領域におけるNIPT,生殖医療におけるPGTの 導入,さらに分子遺伝学の急速な発展により出生前 診断においても遺伝学的知識が要求されるように なってきた.PGT, NIPTはあくまでスクリーニング 検査であり,PGT, NIPTで正常結果でも多くの先天異常が確認されている.できる限り胎児期に正確な胎児情報を得て適切なマネージメントにつなげることが必要である.以下の形態診断・遺伝学的診断, 問題点,解決法などを理解し,いかに合理的に効率 的に利用するかを考えなければならない.
妊娠7-10週で発見できる形態異常
生殖医療に関わる施設では妊娠10週あたりまで管理することが多い.この時期に見つかる形態異常は それほど多くはないが胎芽期早期の発達異常はこの 時期に発見可能である.クリフムではこの時期のアーリースキャンを推奨している.
妊娠11週以降のトリソミースクリーニング検査
1. NIPT(10週から可能)
2. 初期超音波検査(11+0 -13 +6 週スキャン)NT, NTプ ラス
3. 初期血清マーカー組み合わせ(NT+PAPP-A, freeβ hCG)検査(11-13週)
4. 母体血清トリプル・クワトロマーカーテスト(15週 から)
妊娠初期から中期の形態学的診断
妊娠初期から中期において多くの形態異常が超音波検査にて診断される.形態異常がある場合には絨毛検査・羊水検査などで遺伝学的要因がないか確認 することも必要となる.
遺伝学的診断検査(確定検査): 絨毛検査・羊水検査
絨毛検査の利点は週数が早いため妊婦の精神的負 担が少なく,羊膜破綻や児への接触がないことが挙げられる.絨毛検査リスクは0.20%,羊水穿刺リス ク0.30%,リスクプロファイル類似患者での検討で は絨毛検査リスク−0.11%,羊水穿刺リスク0.12% と非常に低く,実際にはほとんど無侵襲検査と言え るが,NIPTに比べはるかに得られる情報が多いため,見直されている.
遺伝学的診断検査の問題点とクリフムでの解決法
1. 従来の出生前検体でのGバンドの弱点とそれを補う 新法
出生前検体でのGバンドでは微小染色体異常の判定が困難で出生後に染色体異常と診断されるケースがある.これを補うため筆者の施設では全 例においてGバンドの補填検査としてNGSを用い たD-Karyo(デジタル染色体)検査を新法として 2020年3月より行なっている.これにより多くの 微小染色体異常が検出され,不要なマイクロアレ イを減らせるようになった.
2. PGT-Aモザイク卵移植例の取り扱い
PGT-Aモザイク卵移植後,胎児期の遺伝学的検 査を行う場合には羊水の未培養細胞からのDNAによるマイクロアレイを選択している.
合理的かつ効率的な出生前診断を行うためには, 超音波所見が決め手になることも多く,遺伝学的検 査の選択もPGT結果や胎児の超音波検査結果などにより考慮し,これらの検査について十分熟知した上 で遺伝カウンセリングを行わなければならない.