生殖と周産期医療のリエゾン
2023年度 年次大会-講演抄録|特別講演-1
学会講師:池田 智明
Abstract
わが国でARTで生まれた児は2022年の時点で6万人を超えており、そのうち92%が凍結胚移植(FET)によることが特徴である。本講演では、生殖と周産期に関わる医療者が協力して取り組んでいくべき3つの話題について述べる。
(1)癒着胎盤:FETは、癒着胎盤やRPOC(retained products of conception、胎盤遺残)と密接に関係しており、特にホルモン補充周期では約10%に合併する。これは大量出血による妊産婦の生命にもかかわり、また子宮摘出となる可能性も高く、周産期医療として重要性を増している。FETと関連する常位癒着胎盤は出生前に診断することが難しく、分娩後に思わず遭遇することも多い。我々はこれに対して、子宮を内反して直視下に癒着胎盤を摘出する方法を開発した。TURIP法(technique for fertility preservation for placenta accrete spectrum without placenta previa)を考案し、これまで10例に応用した。
(2)帝王切開瘢痕部症候群(Cesarean scar syndrome :CSS):CSSは、子宮筋層の瘢痕部が2㎜以上陥凹し症状のある例をいい、不正出血、月経困難症の他、続発性不妊となることが知られている。陥凹部に貯留する液体が着床不全をきたすことが機序の一つと考えられている。2022年4月からCSSに対する腹腔鏡下子宮瘢痕部修復術が保険収載された。われわれは、修復縫合の行いやすさからロボット手術として自費でこれを行っている。
(3)妊娠高血圧症候群(HDP):ART妊娠は非ART妊娠にくらべて、HDPの率が高いことが報告されている。特に卵子提供妊娠においては、われわれの最近の171例を対象にした調査から26%がHDPを発症した。脳出血による母体死亡例もあったことから、HDPの予防や管理に対して習熟する必要がある。