生体内環境に近いMicrofluidic embryo culture systemの研究開発
2017年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:水野 仁二1)・乾 裕昭1)・菊地 瑛子1)・野口 香里1)・丹治 百合1)・濱端 美紀1)・小堤 千歩1)・込山 真貴子1)・山崎 知登世1)・野口 幸子2)・丸本 孝太郎3)
1) 乾マタニティクリニック,乾フロンティア生殖医療不妊研究所
2) 東京慈恵会医科大学
3) 株式会社ナガヨシ
Abstract
【目的】
ART では配偶子及び受精卵の遺伝子にepigenetic な変化が起こることが懸念されている.
我々はmicrofluidic embryo co-culture system を開発し,その有効性を報告した(日本受精着床学会雑誌26(1):151–154 ,2009).
この度microfluidic の機能を35mm ディッシュに搭載したmicrofluidic embryo culture( Vivo)dishの完成を目指し,プロトタイプ作製とコンピューターシミュレーション(CPS)により構造強度と受精卵をとりまく培養液の流体解析を行い初期性能評価を行ったので報告する.
【方法】
Vivo dish(国際特許,商標出願済)は3D-CAD 設計により理想の形態と機能を持たせ,培養液タンク(MT),培養スペース(CS),廃液タンク(WT)を備えるデザインとした.CSには20個の受精卵培養ウエルを備え,ウエル間にはスリットを設けた.
またVivo dishはタイムラプスインキュベーター対応仕様とした.
(試験1)材料2種(ABSとPC)の樹脂版を加工し削り出しによりプロトタイプを試作した.
これらの試作Vivo dishの操作性と構造強度を生殖補助医療胚培養士5名により評価した.
(試験2)設計図データを基に,CPSにより培養スペース内の受精卵をとりまく培養液の流体解析を行い,培養液の,栄養成分,酸素,胚発生促進因子,老廃物等の経時的動きと濃度の変化を確認した.
【結果】
(試験1) 削り出し試作プロトタイプのVivo dishは,胚培養士5名による評価により,樹脂材料ABSとPC 共に操作性と構造強度は既存の35mmディッシュ(Falcon社 1008,DNP社 LinKID micro25)と同等であった.
(試験2) CPSにより以下のことが明らかとなった.
(1) MT からCSに注ぐ流量は,目標値の10-30nl/minを実現できる.
(2) MT からCSに培養液が6日間安定的に注がれるため,CSのMT 側からWTに向かって培養液の穏やかな流れが起こり,栄養分と酸素の供給,そしてアンモニア等の老廃物の除去が実現できる.
(3)卵収納ウエル間のスリットによりウエル底部でオートクライン効果が維持,上部でパラクライン効果の促進が期待できる.
【考察】
Vivo dish の構造評価とコンピューターシミュレーションによる流体解析の結果,構造強度は問題無く,培養液の流れ,栄養成分,酸素,胚発育促進因子,アンモニア等の老廃物の経時的動きと濃度がin vivoに近づき,目標達成に必要な機能と性能を有することが推察された.
今後射出成型法により生産し,安全性と有効性をMEAにより十分に検証し臨床利用を目指す.(㈶福島県産業振興センターの研究開発事業費採択)