Papers and Abstracts

論文・講演抄録

液体窒素内で動作可能なRFID タグを活用した卵巣組織凍結保存管理システムの開発

学術集会 一般演題(ポスターセッション)

2017年度 学術集会 一般演題(ポスターセッション)

発表者:杉下 陽堂1)・佐藤 匠1)・川原 泰1)・澤 勉2)・小松 弘英2)・鈴木 直1)

1) 聖マリアンナ医科大学産婦人科学
2) KRD コーポレーション

Abstract

【背景】
がん・生殖医療における妊孕性温存治療では,若年がん患者が抗がん治療を受ける際,生殖細胞が抗がん治療の影響を受けないよう回避する為,抗がん治療前に患者より生殖細胞や生殖組織を採取し,液体窒素内で患者検体を長期間保存が必要となる.
凍結検体の管理は,胚培養士がマジックにて容器表面に患者情報を記載し,目視で個体識別を行うと共に,その患者情報を紙台帳やコンピューターに登録する管理方法が古くから使われている.
しかし,この管理方法ではヒューマンエラーを避けることは出来ない.
近年ヒューマンエラー対策として,バーコード,2次元コード,RFIDタグを用いて,認識可能なコードを紙やフィルムに印刷し,容器に貼りつけるという自動認識技術が活用されている.
しかし解決されない欠点が残されている.
欠点としては,バーコードはラベル印刷の手間や液体窒素中でラベルが剥がれ,液体窒素から出すと表面に霜が付くため読み取りが不安定であり,RFIDタグは-196℃の環境では動作しないため,RFIDタグを液体窒素から取り出し,RFIDタグの温度が上昇し,動作するまで待つ必要があることであった.
そこで-196℃の液体窒素中でも検体管理可能な方法が切望されている.

【方法】
我々は卵巣組織凍結キット(Ova Cryo Sheet: Kitazato biophalma)を開発し,またKRDコーポレーションは,液体窒素中で動作する高性能な超小型RFIDタグを開発したため,KRDコーポレーションと共に,検体取り違えが決して起こらないシステム開発を共同で進めた.
検討内容は以下の5項目となる:
1. 液体窒素対応タグを卵巣組織凍結デバイスとケーンに対応した.
2. 液体窒素タンクタグとキャニスタータグを併せて使用し,手書きでの管理を不要とした.
3. ICタグ運用に合わせた,ケーン,キャニスター,収納ボックスそしてラックを設計した.
4. 液体窒素中にあるICタグを読み込み可能なPDAに取り付ける延長アンテナを設計した.
5.卵巣,胚,卵子そして精子を全て扱える,管理ソフトを準備した.

【結果】
超小型RFIDタグシステムにおいて上記の検討を行った結果,-196℃の環境下で常温と変わらない1秒以内の応答速度を持続し,100本以上のRFIDタグを一括で読み込む特性を生かし,安全な管理システムの確立に成功した.

【考察】
RFIDタグによる卵巣組織凍結検体管理システムは,液体窒素タンク内における検体紛失の際,どの患者の何が液体窒素タンク内に落下したかの検索ならびに回収が可能なシステムであり,安全で確実なシステムとなる.
RFIDタグの設置位置およびサイズ,そしてRFIDタグに合わせた収納器具の最適化等,実際の試行を踏まえた,ケーン,キャニスタ,収納ボックス,ラックの改良設計を検討することが,全ての生殖医療検体における安全管理システムの構築に繋がることが期待される.

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