液体窒素タンクが破損した際に生 じる外観・液体窒素量・内部温度 の変化
2019年度 学術集会 一般演題(口頭発表)
発表者:小橋 朱里1) ・入江 真奈美1) ・水野 里志1) ・明角 一平2) ・福田 愛作1) ・森本 義晴3)
1)IVF 大阪クリニック 2)株式会社アステック 3)HORAC グランフロント大阪クリニック
Abstract
【目的】
胚の凍結保存は,生殖補助医療に欠くことのできない技術の一つであ る.凍結保存には保存タンクが必須であるが,その重要性に関わらずタン ク管理について明確な情報はない.タンクに事故が起きれば,被害は重 大である.2018年にアメリカで2件のタンク事故が報道され,オハイオ州 の事故では約950人の4,000個の凍結胚が影響を受けたとされている.当 院でも,補充用タンクであったが,タンクが破損し液体窒素(LN )が枯 渇したことを経験しているため,タンクに破損が起きないとは言い切れな い.今回我々はLN 2 を満たしたタンクを破損させ,起きた変化を観察す ることで,どのようにタンクを管理すべきか考察した.
【方法】
検討には,廃棄予定の10L保存タンク3台を使用した.これらにLN2 を満タンにし,タンク中で実際に胚が保存される位置に温度計を設置し た.タンクの真空弁,溶接部,あるいは入口部に,それぞれ直径2mmの 穴を開けることでタンクの真空断熱を解除し,外観の観察,LN 2 の残量およびタンク中の温度を経時的に測定した.測定は,断熱解除から温度 が,保存胚に脱ガラス化が起きるとされる-80℃に上昇するまで1時間毎 に行った.ただし,最初の1時間及び温度が-196℃から上昇し始めてか らは15分毎に測定した.コントロールは,破損前のタンクで24時間毎に 7日間同様の測定を行った結果を用いた.
【結果】
外観は,全てのタンクで観察開始から15分以内に蓋に霜,本体表面に 結露が認められ,この状態は測定終了まで保たれていた.LN 2 は,破損 箇所間で最初の60分のみ減少量に差がみられたが,それ以降枯渇するま では全てのタンクで約4cm/hで減少した.温度は,LN 2 の残量がタンク の底から約1cmになるまで-196℃を保っていたが,そこから上昇が始まり, 上昇開始から45 ~ 80分で-80℃に達した.測定開始から温度が-80℃に 達するのに要した時間は,真空弁を破損した場合では7時間54分,溶接 部では9時間23分,入口部では8時間3分であった.コントロールは,7日 間で満タン時より2cm,LN 2 の液面が低下したが,外観と温度に変化は なかった.
【考察】
今回測定開始から温度が-80℃まで上昇するまでの時間は,破損箇所 の違いにより最大1時間30分ほどの差があった.しかし,この差によりタ ンク破損発見後の対応に違いはないと考えている.今回の検討より,タン クの破損を発見した場合胚救出まで数時間以内の猶予があることが示唆 された.さらにタンクに破損が起こった場合,破損直後から外観に兆候が 現れるため容易に気付くことができる.破損はタンクに動きのある業務中 に起きる可能性が高いと考えられるため,業務中は定期的にタンクの外観 を確認することが重要である.さらに,損傷の兆候を見つけた時のため, 保存胚の移動先や予備のLN 2 を確保しておくことも必要である.